2004年度主要政策研究課題

V. 新たな技術革新システムの探求

科学と技術のリンケージ、技術と製品化のリンケージ、日本の技術革新の強みと弱み、地域クラスター、デジタル家電の情報家電に向けての技術革新を解明します。

(A) 知的財産権と競争力強化

1. 製品・工程アーキテクチャの産業論に関する理論的・実証的研究

代表フェロー

概要

製品や工程のアーキテクチャ(基本設計思想)が産業競争力や企業の競争戦略にどのような影響を与えるかについては近年関心が特に高まってきている。産業競争力分析にアーキテクチャ概念を導入するためには、アーキテクチャのモジュラー度、インテグラル度の測定が不可欠であるが、この測定手法や理論的基礎付けの整備は十分ではない。そのために、製品アーキテクチャを理論的に定式化することを目的とし、関連して
(1)製品アーキテクチャ、生産工程、企業組織をコーディネーション・メカニズムの設計という視点から捉え、それらの間の相互依存関係を分析する、
(2)少数の製品を対象として、アーキテクチャの測定スキームの考案と、それに基づく測定に関するパイロット研究を実施する。

主要成果物

RIETI経済政策分析シリーズ

RIETIディスカッションペーパー

RIETI政策シンポジウム

2. 我が国半導体産業における国際競争力の決定要因に関する調査・分析

代表フェロー

概要

本調査・研究では、我が国半導体産業の国際競争力が90年代以降急速に低下してきている原因を経済学の視点から分析する。方法論的には、内外の半導体・装置・材料メーカーへの聞き取り調査が主体である。

半導体産業においては、ムーアの法則に示される急速な技術革新に伴い自動化レベルの急上昇、工程間の相互干渉問題等科学・技術的な意味での複雑性が増大してきている。加えて、この種の複雑性は、運輸・通信システムの急速な発展によるマーケットのグローバル化、豊かさの増大による消費者嗜好の多様化・高級化に示されるマーケットの複雑性の増大を同時に伴っている。我が国半導体産業は、これらの複雑性に直面し、各種の組織限界を露呈しつつあり、研究・開発部門のみならず、設計・生産技術・製造の各部門も弱体化しつつある。しかも同種の傾向が、管理・営業部門でも発生している。

本調査・研究では、これらの組織限界がもたらされている諸要因・構図を明らかにするとともにその克服策を探る。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

RIETI政策シンポジウム

3. TAMAを中心とする地域クラスター研究

代表フェロー

概要

最近になって製造工場の国内回帰傾向が現れているものの、中長期的に産業空洞化の懸念を克服し我が国経済の再生を確実なものとするためには、高付加価値製品を次々と生み出す産業構造の構築が必要。

TAMA(技術先進首都圏地域:Technology Advanced Metropolitan Area)には、大企業の開発拠点、理工系大学と並んで製品開発型中小企業が集積し、その集積のメリットを生かして設立されたTAMA協会が、各般の産学連携推進および新事業支援の活動を行い、各地の産業クラスター計画の中でも最も進んだ活動を行っている。

このようなTAMAにおける産業クラスター形成およびイノベーションのメカニズムを明らかにすることにより、我が国における地域クラスター(産業クラスターと知的クラスターの総称)形成のあり方に示唆を与える。

主要成果物

RIETI政策シンポジウム

4. S-T-I Networkの研究

代表フェロー

概要

現在の政策研究においては、技術革新と新産業創出のための科学技術システムの定量的・科学的分析が不足しており、これが包括的かつ戦略的な産業技術政策を打ち出しにくい要因となっている。そこで、科学(Science)、技術(Technology)そして産業(Industry)をつなぐ知のインターフェースを包括的に捉えるべく、日本特許データ等を用いてS-T間のネットワークの定量分析を行う。
これにより、「大学や公的研究機関における研究」と「産業におけるイノベーション」およびそれを促進する「制度(政策を含む)」との関係についての理解を深めるとともに、我が国における産業技術政策形成のあり方に示唆を与える。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

RIETIポリシーディスカッションペーパー

RIETI政策シンポジウム

5. 研究開発に関する外部連携とイノベーション

代表フェロー

概要

国際的に研究開発競争が激化する中で、これまで自前主義といわれていた日本の大企業は研究開発における他企業、大学、公的研究機関等外部機関との連携(「外部連携」)を活発化させている。

このプロジェクトにおいては、RIETIが実施したアンケート調査「研究開発外部連携実態調査」の個票データを用いて、企業の研究開発に関する外部連携とパフォーマンスの関係について定量的分析を行う。また、このところ外部連携型のイノベーションシステム改革が進んでいる中国におけるデータを用いて、日中の比較分析を行う。

RIETIディスカッションペーパー

RIETI政策シンポジウム

6. 中小企業とベンチャービジネスの発展諸段階

代表フェロー

概要

1980年代以降、先進国においては経済再生の担い手としての中小企業の役割や創業の重要性について再評価が行われている。他の先進国においては、どのような中小企業が経済再生に寄与するのかなどについて個別企業データをもとにした分析が数多く行われ、政策形成に大きな影響を与えている。しかし、日本においてはこうした分析がこれまでほとんど行われてこなかった。

そのため本プロジェクトでは、中小企業庁が行ったアンケート調査の個表データ等を利用しつつ、開業水準の決定要因、雇用を多く生み出す中小企業の特徴、中小企業再生の成功要因等政策的問題に対応した分析研究を行うこととする。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

7. グローバル市場における戦略的経営と知的財産権

代表フェロー

概要

このプロジェクトは、中国が「世界の工場」から真のハイテク経済に変貌する可能性を評価するとともにそうした変化が日本に与える影響を検証するものである。中国は外国からの投資による知識、技術の流入によって恩恵を受けてきたが、最近まで大部分の付加価値は外国人投資家に吸い上げられてきていた。しかし、こうした動きは、いくつかの非常に成功している企業によってもたらされた競争力の高い中国ハイテク産業、すなわちバイオ、エレクトロニクス、ソフトウェア産業等の興隆によって急速に変わりつつある。

鍵となるのは、こうした発展が本質的な変化の信頼できるサインなのか、それとも単なる例外にすぎないのかという点である。特に重要なのは、競争力のあるハイテク産業の発展に必要なイノベーションに対して、適切なインセンティブを提供するものとして健全な知的財産制度の存在が不可欠であるにもかかわらず、中国のこの分野における進展が極めて遅いことである。これはよく理解されていない中国における自国ハイテク産業育成という戦略的理由に起因しており、このプロジェクトが解明しようとする点でもある。

地方のソフトウェア産業の発展を加速化することをめざしてオープンソースのソフトウェアの振興を図る中国?韓国?日本の官民合同の連携事業の推進については、最近、大々的に公表されたところである。今回のプロジェクトの1つの中心的関心はこうしたソフトウェア産業にある。

主要成果物

  • 継続プロジェクトにつき、引き続き研究を実施中

8. マルチサイド市場におけるイノベーションと規制

代表フェロー

概要

このプロジェクトは、消費者が多種多様な製品を購入したり、そうした製品にアクセスしたり、利用したりすることのできるプラットフォームの周辺に組織化されるハイテク産業に関する研究である。

こうしたプラットフォーム、あるいはプラットフォームが機能する市場のことをマルチサイド市場という。テレビゲーム産業におけるゲーム機というハードウェアをプラットフォームとし、ゲームソフトの生産者、ゲームを楽しむ消費者がいるといった関係が1つの例である。こうした市場ではゲームソフトといった製品の大部分がサードパーティーに属する生産者あるいは独立の生産者によって供給され、プラットフォームが成功するためには適切な価格付けによりプラットフォームが生産者と消費者を同時に引きつけることが必要だからである。

この形の産業組織は、「ニューエコノミー」のコアに位置する産業、すなわちコンピュータ、家電、携帯電話のような通信機器といった産業で最も重要になっている。このプロジェクトは、ケーススタディーと経済モデルによる分析による。実証分析面では、ソフトウェアのプラットフォームの直感的には理解しづらいビジネスの側面の理解を助けるケーススタディーとモデル分析を行う。政策的分析面では、同じくモデルによる分析とこうした産業を対象とした実際の政策および可能性のある政策についてサーベイを行う。

このプロジェクトの主要なゴールの1つは、特に、日本の家電産業における収益性と国際競争力の向上を目指し経済産業省が現在取り組んでいる産業政策の立案に対して有用な情報を提供することである。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

RIETI政策シンポジウム

(C) 産業集積現象に関わる分析-貿易・投資の影響、集積地の強みの比較

1. 東アジア経済の統合と日本の都市集積

代表フェロー

概要

国際経済関係のボーダレス化が着実に進展しており、東アジアにおいても経済統合は着実に進展している。グローバリゼーションの中で急速に進んでいる東アジアの工業化と、日本の経済構造の変容とには相関があり、日本の地域構造の変化は東アジアにおける経済発展の大きな流れの一部分であると考えられる。即ち、近年の日本の「産業の空洞化」や「産業基盤集積の衰退」も、あるいは東京への集中の再現も、東アジアにおける国際地域経済システムの形成と発展という、よりグローバルなプロセスの部分的な現象であるととらえることができる。

このような経済現象の背景には、多くの場合、規模の経済が本質的に働いていると考えられることから、当プロジェクトにおいては、新しい空間経済学の成果を取り入れつつ、基本的には外部経済・不経済をなるべく内部化した上では都市への集中は抑制すべきではないとの認識に立ち、以下の通りの論点に関し研究を進めている。
(1)国土の均衡ある発展というコンセプトの再検討を行う。
(2)都市集積のメリットに関しては、既存の研究を発展・改善させ、都市集積の利益の測定、通勤の混雑費用と望ましい政策について分析する。また、東京と大阪の港湾の現状と今後のあり方、関西の再生等についても考察する。
(3)東アジア各国間の分業構造の変化に関しては、その実態およびそれと日本の都市・経済集積のポジションニングとの相関について検討する。また、東アジア全体の地域集積の応用一般均衡モデルの構築に関しては、既存のデータベースの改良により今年度中に原型を完成させ、それに基づくシミュレーションを行う予定である。
(4)経済集積の成長や変化は、ハード、ソフト両面でのインフラストラクチャーの整備に相当の影響を受けることに鑑み、適切な産業政策、都市・地域政策のあり方を検討する。その一環として、地域のいくつかの行政サービスに関し、その改善策、費用と規模の関係等について考察するとともに、都市型の産業に共通する課題について考察する。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

RIETIポリシーディスカッションペーパー

RIETI政策シンポジウム

(D) 日本の「ソフト・パワー」とアジアへのインパクト

1. ブランド・エクイティ構築におけるデザイン活用

代表フェロー

概要

2002年にアメリカ人ジャーナリスト、ダグラス・マッグレイが「Foreign Policy」誌に寄稿した論文「Japan's Gross National Cool」が話題となったように、「失われた10年」と称される1990年代は国内消費財産業の転換期として捉えられるであろう。技術力に依拠した製造業がアジア各国の伸長のなかで価格競争力を保持できなくなる一方、マンガ、ゲームなどのコンテンツ産業や、デザイン重視型の製品がもたらす経済効果が急速に注目を集めている。しかしながら、こうした「ソフトパワー」の再生産システムについての研究はいまだ少ない。

本プロジェクトでは業界内世界第4位の売上を誇り、世界レベルでも最大かつ最長の伝統を持つインハウスデザイン組織である資生堂宣伝部に注目し、技術力に加えグローバルに通用するデザインの戦略的活用によるブランド構築過程とクリエイター組織について分析する。

(E) 革新システムに適合した人的資本の形成

1. 知識経済化時代のイノベーションと組織変革、人材育成

代表フェロー

概要

今後の日本企業の組織能力を活用したイノベーション戦略、また、経営・組織戦略、人材育成方策の策定ための新たな視座を提供するため、知識経済化時代の情報技術、生産と知識の関係の進化の状況をベースに、90年代以降の日本企業の経験を踏まえ、以下の研究を実施する。具体的には、
(1)イノベーションに関連し、「組織的イノベーション能力」の概念化を行う。組織変革と人材育成に関連し、「組織的管理運営能力」の概念化を行う。
(2)また、産業の中でも知識経済化の影響を最も受けた電機産業に的を絞って、ケースとなる企業に対して、これら能力を含む全体フレームにより、これら概念化の妥当性を確認する。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー