スタートアップ期中小企業の研究開発投資の決定要因

執筆者 岡室博之  (一橋大学大学院経済学研究科助教授)
発行日/NO. 2005年3月  05-J-015
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概要

技術革新の主体として、ベンチャー企業を含む中小企業の開業が関心を集めている。しかし、スタートアップ期の中小企業の研究開発の影響要因については、これまでほとんど研究が行われていない。そこで本稿は、設立後15年以内の製造業中小企業の研究開発投資の決定要因を、企業のマイクロデータと産業別・地域別データを用いて計量的に分析し、成熟企業を中心とする製造業中小企業サンプルの分析結果と比較する。多くの先行研究は、企業の研究開発の要因として規模・内部資金制約等の企業属性と技術成果の専有可能性・技術機会等の産業属性に注目しているが、本稿の研究はそれらの要因に加えて学術研究機関や人的資本の集積等の地域属性を重視する。研究開発実施確率に関するプロビット分析および研究開発集約度に関するトービット分析の結果、企業規模と専有可能性はスタートアップ期の中小企業における研究開発の実施と集約度の両方に有意な正の効果を持ち、それに加えて技術機会と地域の研究・知識基盤が研究開発集約度に有意に影響することが検証された。この結果は製造業中小企業サンプルの分析結果と基本的に共通するが、スタートアップ期の企業については社長の学歴と内部資金の影響は見られなかった。本稿の分析結果は、全体として、中小企業の研究開発における地域の研究・知識基盤形成の重要性を示唆するものである。