2005年度主要政策研究課題

I. 10年間の日本経済の停滞のマクロ・ミクロ両面の総括的評価

日本経済の「10年間の停滞」の中で生じたプラス面とマイナス面についてマクロおよびミクロの両面からの総括的分析と、新たな挑戦的課題の解明を行う。デフレの脱出メカニズムの体系的な研究は、他の先進国やアジア諸国にとっても有用な知見となる。

(1) デフレからの日本特有の脱却メカニズム

1. 公的債務・物価水準・為替のダイナミクスと、実体経済との連携

代表フェロー

概要

日本経済のマクロ的問題として重要なものは、脆弱な金融システム、デフレの継続、公的債務の拡大、そして為替の動向である。これらの問題を解決するために、金融システムを考慮したマクロモデルを用いて、公的債務・物価水準・為替のダイナミクスと、それらと実体経済(社会厚生)との関連を分析する。さらに、上記のテーマから派生するテーマ(銀行信用と企業間信用の問題、企業や政府の調整の失敗など)についても、研究を実施する。分析手法は、主に理論研究が中心となるが、(1)理論モデルの構築、(2)データを使った実証研究、(3)文献調査等による各国のケーススタディを必要に応じて使う。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

2. 19世紀末デフレ脱却のメカニズム

代表フェロー

概要

1990年代以降の日本のデフレとその脱却のメカニズムを解明するに当たり、過去のデフレのエピソードを研究する試みは一つの重要な方法である。過去のデフレ期のなかで、1930年代の「大恐慌」だけではなく、19世紀末のデフレにも光を当てるべきだという見解がある。両大戦間の不安定な時代背景のもとで発生した「大恐慌」に比べ、グローバル化が推進される中で起った19世紀末デフレには、中国、インドが大々的に国際市場に参加してきた今日と似通った点が多い。また、19世紀末デフレでは金本位制というかなり安定した国際金融システムの下で25年間マイルドなデフレが続き、しかも同じく金本位制の下でデフレを脱している。世界的に見て1990年代以降の金融政策への信任の厚さが期待インフレ率を低く抑える中、日本で長期にマイルドなデフレが継続し今や脱却しつつあるという現状と比較して、19世紀デフレに我々が注目するゆえんである。
19世紀末デフレの期間を1873年から1896年までとするのが一般的だが、この間のデフレの要因とそこからの脱却のメカニズムを、さまざまな観点から総合的に分析し、1990年代以降の日本のデフレとの類似点、相違点を明らかにし、今時デフレのメカニズム解明を図るのが本プロジェクトである。

主要成果物

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(2) 産業別TFP(全要素生産性)の研究

3. RIETI製造業データベースの作成と産業別生産性に関する研究

代表フェロー

概要

日本経済の過去10年の停滞を理解し、そこから抜け出す政策を構想するためには生産性や産業構造、資本収益率の動向等に関する分析が欠かせない。生産性上昇は、労働人口が減少する今後の日本における経済成長の主要な源泉である。また、資本収益率は、設備・教育投資の動向を左右する。本研究では、産業レベルおよび事業所レベルのデータを用いて、これらの問題を分析する。産業レベルの実証研究としては、製造業について、4桁産業別に資源配分の効率性や生産性を分析するためのデータベースを作成する。
また、マクロ経済全体を3桁産業レベルでカバーする、JIPデータベースの改定を行う。作成したデータベースをもとに、IT革命や海外との分業、生産の海外移転等が生産性に与えた影響を分析する。
さらに、有価証券報告書のデータやJADE、CRD等の未上場企業を含む企業財務データを統合することにより、経済全体の生産性や資本収益率の動向について、企業レベルの視点から分析を行う。一部の産業については、構造改革が生産性に与えた影響に関してケーススタディを行う。

主要成果物

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4. 小売業の規制、市場競争、生産性

代表フェロー

概要

1990年代は日本経済における「失われた10年」といわれるが、生産性という観点から見ると、非製造業の生産性が低いことがその一因といわれている。そこで、本研究では、非製造業でも大きなシェアを占める小売業に焦点をあてて分析を行う。小売業では、90年代に大店法の廃止という形で大企業向けの規制改革が進められた。しかし、その一方で零細事業者向けの税制優遇などの制度要因が残っており、このような部分的な規制改革が小売業の生産性にどのような影響を与えたかについて検討する。また、本研究では、経済産業省の商業統計データの個票データを時系列接続したパネルデータを作成し、事業所の参入・退出に注目を当てつつ分析を行う。

主要成果物

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5. アジア諸国の生産性の国際比較(ICPA)

代表フェロー

概要

東アジア諸国の台頭と日本の産業競争力の動向を的確に把握することは、産業政策を行う上でも重要な課題である。本プロジェクトは、韓国、中国、台湾、日本、米国の5カ国で共通の産業分類に基づくKLEMデータ(産業連関表、資本、労働に関するデータ)を整備して、1980年以降の産業別生産性比較を行うことを目的とする。また、産業別の相対価格も併せて整備し、生産性水準に関する比較も行い、日本の各産業における国際競争力の評価を行うこととする。

主要成果物

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(3) 産業別TFP(全要素生産性)の研究

6. 電力改革における制度設計のための学術的検討

代表フェロー

概要

2002年度末の電気事業分科会で、我が国における今後の電力自由化の骨格が決定されて以来、制度の詳細設計に関する検討が継続している。しかし、2005年に創設が予定される卸電力取引市場の制度設計をはじめとして、未解決の問題が山積みされているのが現状である。そこで、本研究では、電力産業に独特のさまざまな技術的要素も考慮し、経済学や工学等の学際的視点から、従来の知見を超えた新しいアプローチを模索する。それによりリアルタイム市場、先物市場等を含む卸電力取引市場の創設をはじめ、一連の電力改革のより一層の進展に向けた望ましい競争政策並びに規制政策のあり方を理論・実証両面から追求し、効率的な電力市場の形成促進に寄与する政策提言を目指す。

主要成果物

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7. 制度設計における実験経済学的アプローチ

代表フェロー

概要

経済・産業政策における政策課題を実験経済学の手法に従って比較検討を行うプロジェクトである。今年度は、独禁法改正におけるリニエンシー制度(カルテル参加者に密告のインセンティブを与える制度)の有効性の検討に重点をおいて検討を進める。すなわち、クールノー寡占競争をモデルの基本とし、その繰り返しゲームとしてカルテルの活動を捉え、罰則と報奨のどちらのリニエンシー制度がカルテル摘発・防止に有効であるかを再検討する。また、カルテルの国際的協調活動を視野に入れた多数市場モデルの分析へと発展させる。フランスを中心として諸外国の研究者との共同研究も進めていく。

主要成果物

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(4) 制度的補完性に関わる問題?政府のガバナンス

8. 地方分権下における官と民の役割分担:自治体特別会計・外郭団体の実態と役割およびそのガバナンスの仕組みの実証的研究

代表フェロー

概要

昨年来始まった三位一体改革により、地方自治体は、これまで以上に、自己責任のもと財政運営を行っていかなければならない。そのためには、官と民がお互いに得意分野を担い、限られた資源を有効に活用することが必要である。しかしながら、中間に位置する公的組織の実態およびガバナンスのあり方に関しては、経済学的な分析が不十分である。どのような仕組みが効率的な官と民の役割分担を実現させるのか、すなわち、ガバナンス構造のあり方を、全体の実態、自治体間の効率性の比較、意識格差(新しい仕組みへの取り組み)の把握などから考えることは可能であろう。
本研究では、特に、公営企業に着目し、総務省が行っている調査結果をもとに、その実態を明らかにするとともに、効率的な官と民の役割分担を実現させるガバナンスの仕組みを政策提言する。

主要成果物

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