電気事業・都市ガス事業における政策制度変更の定量的影響分析

執筆者 戒能 一成  (研究員)
発行日/NO. 2005年12月  05-J-034
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概要

電力や都市ガスの「部分自由化」など、1990年代に行われた一連の電気事業・都市ガス事業に関する政策制度変更が、電気事業・都市ガス事業の経営挙動を通じて電気・都市ガス市場の経済厚生にどのような影響を与えたのかを定量的に分析・評価するためには、事業者がこうした政策制度変更に対応して実施した料金・価格設定や、設備投資の抑制・重点化や操業費用の節減など費用に関する経営挙動への影響について定量的分析を行い、当該分析を基礎に総余剰の変化とその消費者・生産者間での分配を推定し、これを評価することが必要である。

本稿では、地域別の一般電気事業者・都市ガス事業者の料金・価格設定や設備投資・操業費用の推移を財務諸表などの公開文献を用いて模式的に再構成し、電気事業者・都市ガス事業者の経営挙動への政策制度変更の影響を定量的に推計し、さらに総余剰変化とその分配を推計することにより、地域独占型の規制産業に対する政策制度変更の有効性とその問題点を実証的に分析・評価することを試みた。

分析・評価の結果、電気事業・都市ガス事業とも、「部分自由化」などの政策制度変更の影響により、設備投資の合理化や操業費用の低減など経営努力の強化が認められ、過去15年間の平均費用の15~20%の低減のうち4~5%分が政策制度変更による影響であると推計された。

電気事業においては、政策制度変更の前後を通じてこれらの平均費用の低減が産業用料金・価格と家庭用料金に適切に反映され、総余剰変化は増加を続けるという結果となり、政策制度変更が経済厚生を有効に拡大したものと推定された。

一方、都市ガス事業においては、政策制度変更上の問題に起因して、平均費用の低減が産業用料金・価格には反映されたが家庭用料金には反映されなかった形跡があり、家庭用都市ガス市場では消費者余剰が増加しておらず、部分自由化と期を一にして都市ガス事業者の営業利益と自己資本が著しく拡大するなど、経済厚生上の問題を生じた可能性が示唆された。

当該問題をより正確に把握し、予防・改善していくためには、市場別の経営諸元の情報公開の推進、経済厚生に関する常態的な分析・監視と勧告制度の創設などの実効ある措置が必要と考えられる。