域外資本と地域経済循環

中村 良平
ファカルティフェロー

大型店の立地効果

2014年12月5日、JR岡山駅から地下道でもつながる距離に、売り場面積9万2000㎡の大型ショッピングセンター、イオンモール岡山が誕生した。政令指定都市の中心駅前に立地する大型商業施設としては極めて珍しい。中国・四国地方最大級の都市型大規模モールとして、地下2階・地上8階、356のテナントから構成されており、238店が岡山県への初出店である。これに対して、県内企業は65店と全体の2割近くを占め、一定の地域色も打ち出されている。年間2000万人の集客を見込んでいるが、11月29日からのソフトオープンも含め、入店客は12月11日の13日間で既に100万人を超えた状況である。

これだけの大規模店のしかもまち中心部への立地であることから、開業前から様々な論争が巻き起こった。一言でいうと、「イオンSCは岡山にとって活性化の起爆剤か、それとも黒船か」ということである。まちにとってみると、集客力のある施設はまちの賑わいを高める。特に、岡山市近郊の市町、また年齢層で言うと高校生や大学生といった若い世代にはイオンの魅力は大きいようだ。

現在のところ、駅近くの立地ということで、公共交通を使った来店者が周辺の市町からも多く、当初懸念された大渋滞も起きていない。そして、500m離れた表町商店街への回遊も、中間地点でのイベントの効果もあり、一定程度生まれている。岡山市内での大型消費需要は、一見、地域経済にとって好循環をもたらすきっかけとなっているようだ。しかしながら、少し大局的(マクロ経済的)に考えてみると、違った面が見えてくる。

このような大型店では、岡山市を中心とした地域で稼ぎ出された所得がかなり消費される。岡山市にとっては域外需要も吸収しての地元消費である。地元のマネーの消費漏出はない。しかしながら、そこで消費されたマネーの多くは千葉にある本社に一旦送金されるであろう(注1)。これは、岡山に限らず倉敷にあるイオンも同様である。そこにおいて全国から集まった資金を、どこに(再)投資するかを決定する。岡山にはその決定権はない。つまりそれは、岡山で生み出され分配された所得が、そこに再投資されるかどうかは不確定だということを意味する(注2)。

これと同様なことは、メガソーラー発電の設置を域外資本が地域に参入して投資することにも見られる。売電収入は投資した域外に本社のある会社に入るのであり、地元へは固定資産税の収入が入る程度で、雇用効果はほとんどない。こういった資本が地方に投資され、マネーが東京(首都圏)に還流していくのである。

地域経済の循環

地域経済の循環システムを図1に示すような生産・分配・支出の三面から見てみよう。地域経済は開放的であるが故に、そこには多くのマネーの流入と流出がある。生産面では、その産出物を域外へ出荷して域外マネーを獲得すると同時に、生産活動に必要な原材料や中間財を域外から調達することでマネーが流出する。生産によって生み出された付加価値は、その貢献した主体に分配されるが、域外からの通勤者や域外に居住する資本家(土地所有者も含む)であれば、その分配マネーは流出する。

所得になったマネーは消費に回るか貯蓄されるかのいずれかである。購入した消費財が域外から移入されたものであれば、それはマネーが流出することになる。また、域外で消費した場合には、それはこの「まち」への入り込み観光消費とは反対の場合で、財やサービスを移入していることになる。そして、貯蓄に回ったマネーは、金融機関が融資することで投資に回るのだが、域内に投資されても資材の需要が満たされないと移入によってマネーが流出することになる。この「まち」の外に投資される場合に資金は流出するが、投資の結果形成される資本ストックがこの「まち」にとっての資産の増加となる。これらの需要によって生産活動が再び生まれるという三面からの循環が形成される。

しかしながら、ここで述べたように地域経済では漏出も多いので、それらをきちんと捕捉しておかないと三面等価は成り立たなくなる。このような漏出の多い「まち」の経済でも、その対象とする地域を、通勤を考慮した地域の就業圏域で捉え直すと、図1における域外消費や賃金所得の流出などは小さくなってくる。ここにおいて地域経済の資金循環の課題は、貯蓄に回ったマネーが投資に回っているかどうかということである。一般に、地域の投資資金需要が資金供給を下回っていると、そのマネーは運用先を求めて、国債や社債のような金融商品、またコール市場で運用されることになって、多くの場合、地方の資金は、財貨の取引によるマネーの流動という実物経済ではなく、東京の資金需要を賄うようなマネーだけの流動という信用取引による金融経済の循環になってしまう。

個人間の仕送りや贈与、企業内での資金移転は、対価を伴わない無償の資金移動であり、地域経済にとってはマネーの流出である。後者の場合は、図1の(2)の下にある域外の資本の場合に該当し、企業所得が域外に行くのみならず、支店や工場などから本社部門への資金移動が行われる。

図1:地域経済における三面からみた循環と漏出
図1:地域経済における三面からみた循環と漏出
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東京への集中

図1は、地方のまちを念頭においた図になっていて、その分資金の流出が強調されているが、流出先にとっては、これが資金の流入となっていることは当然である。ただし、その相手先は、圧倒的に資本の集中する東京ということになる。

文部科学省の「学校基本調査」における出身校の所在地別の入学者数によると、東京都内の2014年度に入学した大学生で首都圏以外の高校の出身者は4万7303人である。仮にその8割が平均5万円の仕送りを受けているとすれば、4学年分を考慮して年間の地方からの仕送り金額は約908億円になる。これは、人口23.7万の佐賀市の歳入総額(平成24年度決算)の887.6億円を上回る額になる。

表1は、人口や就業者、生産額や所得額、販売額や出荷額などいわゆる実物経済に関係する指標の東京都の対全国シェア、及び金融経済におけるストック指標である銀行預金額と貸出額の東京のシェアである。これをみると、実物経済における指標では、人口雇用関係が12%~14%、生産・所得関係が18%~20%となっており、東京の労働生産性が高いことが表れている。製造業に限ってみると、工場をベースとした割合と事業所をベースとした東京のシェアでは倍近い異なりが生じていることが判る。正に企業内の地方の工場から東京の本社への移転があることが推察される。そして、総合商社の本社が立地する東京の卸売販売額、資金供給力と資金需要力を示す預金額と貸出額では他のシェアを20ポイントも上回っており、従業員1000人以上の会社の割合が41.8%あることと併せてみると、東京への資本集中の結果であることが推察できる。

表1:東京都の対全国シェア
指標東京都の割合出典
昼間人口12.2%国勢調査(2010年)
従業地就業者13.7%国勢調査(2010年)
生産額18.6%県民経済計算(2011年度)
法人企業所得19.3%県民経済計算(2011年度)
製造品出荷額2.9%工業統計表(2012年)
製造業産出額4.6%県民経済計算(2011年度)
工業付加価値額3.9%工業統計表(2012年)
製造業生産額7.4%県民経済計算(2011年度)
小売販売額13.1%商業統計表(2011年)
卸売販売額39.3%商業統計表(2011年)
銀行預金額(国内銀行)41.6%日本銀行(2013年度)
銀行貸出額(国内銀行)30.3%日本銀行(2013年度)
従業員千人以上の会社41.8%経済センサス(2012年)
注:従業員とは、常用雇用者のことを指している。

このような東京一極集中の結果、地方のマネーはどのように運用されているかを見たのが図2の地銀別に預貸率と預証率を示したグラフである。それぞれ地域の金融機関の特徴や地域特性があるので一様に論じることはできないが、北関東から首都圏に立地する地銀は預証率が他の地域の地銀に比べて低く、預貸率も0.8前後(全国地銀の平均は0.72)と比較的高いところにある。これに対して、地方圏ではその反対の傾向が窺える。

図2:全国地銀の預貸率と預証率:2014年3月末
図2:全国地銀の預貸率と預証率:2014年3月末
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注:「全国地銀協会」の資料から作成。

資金移動のメカニズム

それでは、このような状況になっている背後の資金循環(マネーフロー)のメカニズムを考えてみよう。東京には大企業の本社が多い。表2に示すように、会社の従業員規模別に東京都のシェアを見てみると、会社規模が大きくなるに従って東京都に立地している会社の割合が増えてきていることがわかる。ちなみに従業員規模が5000人以上の会社は全国に582社あり、そのうち54%の314社が東京都にある。

表2:会社規模別の東京のシェア
指標東京都の割合
100~299人規模の会社18.2%
300~999人規模の会社25.9%
1,000~1,999人規模の会社38.0%
2,000~4,999人規模の会社42.6%
5,000人以上規模の会社54.0%
注:「経済センサス」(2012年)より作成。

企業は生産活動に付随して投資活動を行うが、それには資金調達が必要である。具体的には、社債の発行や金融機関を通しての借入などがあるが、その金融機関としては、地方の資金供給が需要を上回ると言った状況では、表1や表2からも容易に想像できる資金需要が高い東京で預金を運用することになる。つまり、地方の金融機関の預貸率が1.0を大きく下回る資金余剰の状況からは、その余剰資金が本支店勘定、コールローン、有価証券保有などの形で中央(主として東京)に流出していることが窺える。このことは地方経済では、S(貯蓄)>I(投資) となっていることを意味しており、預金の内、金融市場や証券市場へ行く部分をBとすると、
S=I+B  (1)
で埋め合わされている。さらに、Bのうちには地方債という地域に還元されるもの(BL)と国債やコール市場など地域から出ていくもの(BC)に大きく分けることができる。つまり、
B=BL+BC  (2)
となる。

BCの部分は実物経済ではない金融経済における信用取引である。実物経済の取引の対価以上に東京にはマネーの流入がある。これは、東京にとっては域外への債務増加ということになる。この結果、地方への投資は、地方にとっては域外債務を減少させることになるものの、その収益の大半は本社がある東京に還流され、地元では様々な面での意思決定を発揮できない。

(1)式における貯蓄は、分配所得をY、消費をC、税金をTとするとS=Y-C-T、つまり
Y=C+S+Tとなる。
この式と開放経済における所得支出のバランス式
Y=C+I+G+X-M
(G:公共支出、X:移出、M:移入)
から
S+T=I+G+X-M
という関係式が導かれ、更に(1)式と(2)式の関係を使うと、
BL+BC+T=G+X-M
ここで、もし財政均衡であれば、
BC=X-M
となり、資金の流出、言い換えるとマネーの移出が財貨の域際収支黒字に等しくなってくる。つまり、地方のマネーは東京へ投資され、それが地域に間接的に還流されていることになる。しかしながら、鶏と卵の関係にも近いが、地方では産業力が弱いために域際収支は赤字となっている地域が多い。つまり、X-M<0の状況なので、地域経済が成り立つにはBL+T=Gではなく、BL+T<Gという公共支出で民間投資不足をカバーしていることが必要条件となってくる。しかし、それを地域の収入では賄えないので、中央政府からの財政移転Tr
(BL+T)+Tr=G
という形で(事後的に)存在し、それが
Tr-BC=M-X
=-Q(産出・供給)+QD(支出・需要)
のように、東京へ資金が流出すると、域際収支の赤字(需要に対する供給不足)を補うのにそれだけ財政移転も必要になるという状況になっている。

地方創生の構造的問題

このように考えてみると、一定の地域就業圏域で地域の範囲を捉えても、そこにおける資金の漏出は、構造的なものであることが判る。域外資本の立地、これは自治体の企業誘致と関係が深いが、その立地の背後には地方から流出した資金があり、立地企業の収益の多くは再び本社のある東京に還流するということになっている。いずれも東京に企業や人口が集積していること以上にマネーが集まっていることに因っている。

こういった構造的な問題に起因していることは、構造改革を断行することが直接的な解決策である。それは、今回の地方創生で講じられようとしている地方への本社機能の政策意図を持った移転である。移転に伴い地方の拠点に従業員を増やした場合、移転の年から4年間法人税を減税できる措置をとることになっている。

誘致企業は全国各地にあるが、それが地域に根付いて、誘致企業の収益が地域経済への再投資に向かうには、施設整備やインフラの整備、労働人材の教育、地元企業とのマッチング等、地域(企業)との連関構造を強めるための努力などが必要である。これが次第に資金循環の構造を変えてくる。それには長い年月と努力を必要とする。4年間だけという期限付きで法人税減税により企業を誘致するだけでなく、様々なバックアップが必要になってくる。「地方創生」が真にうまくいくかどうかには循環構造を変えるという長期的視点が求められる。

地域資金の好循環に向けて

地方の資金を地方に循環させるのに、今日まで様々な地域活性化のためのローカル・ファンドが考えられてきた。また、地域の資金を循環させるだけではなく、流出したマネーも含めて広く浅く資金を調達するファンド方式もある。たとえば、岡山県の県北にある西粟倉村の「百年の森林(もり)構想」では、民間会社の「共有の森ファンド」を通じて、2010年3月末で2540万円に達しており、その資金は森林組合で使う機材等の購入に充てられている。これは、いわゆる広義の自然環境の保全という経済的収益ではなく社会的収益性を求めて投資をしてもらうという趣旨のものであり、地方には棚田や伝統文化など有形・無形の社会的価値のあるものが多い。そういった社会的価値財は、直接的な経済的な価値は持たないが、長期的には地域経済の価値を向上させ地域の発展に資することが予想される。それは、これらが人々の心を豊かにする効用効果を発揮するストックであり、人々は地域の効用格差によって長期的に移動するからである。その潜在的価値を如何に認識して地域に投資を呼び込むかは、社会的な制度設計と成熟度による。

一般に効用の8割は貨幣所得に比重があり、あとの2割が非経済的価値の部分と考えられている。つまり、移動を実現するには、収入の糧となる仕事の創出が不可欠である。投資による成果が社会的価値を生み出すのであれば、それによって収益は見込まれる(注3)。

これらはマネーを惹きつける方法であるが、域外資本が投資してきても収益マネーの流出を抑制する方法を考えることも必要である。例えば、事前にまちづくりへの負担金を約束するといったような、その企業が当該地域に再投資する仕掛け、前節で述べた本社機能の移転(本社送金の減少)と地域社会での連関構造の稠密化、さらには都会の私立大学の入学実数の厳格化(仕送りの減少)も考えられる。

こういった資金循環が、地域間格差を是正することにつながる。これまで我が国の地域間格差を是正する政策は、地方への工場分散、公共投資の傾斜配分といった地域経済にとっては外生的なものであった。これらは一定の成果も上げたものの、それでも大都市圏と地方圏の人口割合は拡大を続け、多くの地方は大都市圏への人口流出に悩んでいる。地域社会の努力によって内生的に資金循環構造を変えていくことが真の地域創生・地域再生につながる。

『都市問題』第106巻 第02号/2015年02月号((公財)後藤・安田記念東京都市研究所)に掲載

脚注
  1. ^ 売上高は、統計上は岡山の企業所得として計上されるが、実質は千葉県の企業所得となると推察される。
  2. ^ もちろん、地元資本が東京に投資することもあるが、地方に投資する東京資本に比べてそれは圧倒的に金額が小さい。
  3. ^ 例えば、参考文献にもある社会的インパクト投資である。
文献
  • 中村良平『まちづくり構造改革:地域経済構造をデザインする』日本加除出版、2014年.
  • マーチン・マクシミリアン「社会的インパクトを投資可能にする」笹川平和財団、2014年.

2015年2月6日掲載

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