地域における循環型経済と地域経済構造分析

中村 良平
ファカルティフェロー

1. はじめに

この原稿を書いていた7月31日に、「東京都の新型コロナ感染者は460人超え」という報道があった。少し前までは新型コロナ感染の第2波がくることが懸念されるといった声が多かったのが、それが現実のものとなってしまった。

そもそも地方の感染者の多くは、東京との往来によって発生したものである。緊急事態宣言による地域間の往来規制によって、東京での需要の落ち込みが地方経済にも波及した。この背景には、意思決定と経済の東京集中、また人口分布の首都圏への偏在という我が国の国土構造がある。

従来から首都圏の経済成長の恩恵にあずかってきた結果、地方にも東京依存の体質が定着してしまっている。例えば、ブランド型一次産品の出荷先を東京市場にまるまる依存してきたこと、地方に立地する誘致工場の意思決定はほとんどが東京本社によってなされるなどはその典型であろう。

近年、地域活性化に貢献してきたインバウンドも東京への来訪者からの延長線上である。インバウンドに依存した地方の観光戦略も、コロナ禍を機に発想を抜本的に変える必要があろう。より包括的に言えば、地方振興のあり方自体を根本的に改める発想の転換が不可欠となる。

それは、「市町村⇒通勤圏域⇒県域⇒広域経済圏域」という広がりで考えるマネーの循環構造に基づく発想である。企業誘致をするなら、原材料や部品調達をせめて県内から可能にする状況を前提にして、併せて地方の人材育成とセットで考えるべきである。前者は、正に今回のコロナ禍における中国依存のサプライチェーンの見直しに資するもので、循環できる地域経済に向かわせる。商品のサプライチェーンやデマンドルートについても、この考えでリスクを分散化できる。

コロナ禍における持続可能な地域経済を目指すうえで、地域間のマネーフローを把握しておくことは重要な情報である。そういった観点で必要なアプローチが「地域経済構造分析」である。地域経済の強みと弱みを見いだすだけでなく、産業間のつながりを検証し、より経済波及効果の高い産業構成を目指す分析方法なのである。

調査研究情報誌ECPR Vol. 45(2020 No.1)に掲載

2020年11月19日掲載

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