持続可能な地域経済の設計を目指して
経済循環の視点から考えるまちづくり

中村 良平
ファカルティフェロー

持続可能な自立経済

「持続可能な地域経済」は近年良く用いられる言葉であるが、これは「地域経済が一定の自立度を保ち、それを継続できること」と定義できよう。もちろん、生態系など環境の維持やエネルギーの面からの持続可能ということも定義できる。

ここでの「自立」とはどういうことなのであろうか。自立には、意思決定での自立、財政的な自立、経済的な自立などが考えられる。財政的な自立は、基本的には経済的な自立に従属する事柄である。経済的な自立とは、全てのものを自前で揃えてやっていくフルセット型を意味しているのではない。地産地消は重要だが、行きすぎると非効率的な鎖国経済となってしまう。自地域で対応できることは自地域で行い、自地域で潜在的にも供給できないものについては域外からの移入に依存することが望ましい。

ここで、域外からの財やサービスの購入(移入)は、まちの家計簿(財政)にとって赤字を意味する。これではまちの経済はやっていけないので、当然、地域外に財やサービスを移出することで域外マネーを獲得することが必要になってくる。移出と移入の差を域際収支(移出-移入=域際収支)というが、これがプラスであることが経済の自立と言える。しかし、域外収支がマイナスの地域が多いのが実情であり、そのような地域には地方交付税などの所得移転で財政が賄われているのである。

移出できるということは、その財に対して他地域に需要があるからで、それは他地域にないものとか、質的に差別化されて優位なものである。同質のものを提供するライバル地域があっても、時間距離が小さければ費用の優位性を保てる。

高齢化率が高い地域の経済において、特に消費経済は年金に依存するところが大きい。しかし、これでは地域経済の維持はままならない。持続可能となるためには、地域で付加価値を生み出し、しかもそれで域外からマネーを稼ぐ必要がある。

人口規模と高齢化率

図表1は、横軸に市町村人口規模の自然対数値、縦軸に当該市町村の65歳以上の人口割合を取り、1970年と2010年についてプロットしたものである(注1)。この40年間を比較してみると、まず人口規模と高齢化率との相関関係は2010年の方が高くなっていることがわかる。これは、昔の方が小さなまちでも年齢分布に幅があったことを示唆している。また、縦軸を見ると、1970年では最高値が20%程度であったのが、2010年ではそれが3倍の60%近くに達している。同様に、日本全体で見ると高齢化率が7.1%であったのが2010年では22.8%と、これも3倍増になっている。この40年間で、我が国は高齢化社会に突入したことを示している。

図表1:自治体の人口規模と65歳以上人口の割合の関係
図表1:自治体の人口規模と65歳以上人口の割合の関係
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「国勢調査(総務省)」から筆者作成

このように日本は年金などで支えられる世代の人口が支える人口を上回ってきており、そして人口規模の小さな自治体ほど高齢化率が高く、支えられる世代が多いことが明確になっている。40歳台未満の若い世代の転入(移住)を促進し、ひいてはまちの出生率の増加を考える地方の自治体は多いが、それにも増して地域経済が持続可能となるのには、高齢者が付加価値を生み出せる「まちづくり」が必要なのである。

東京都と他の道府県との格差と人口移動

東京一極集中が言われて久しい。図表2は、47都道府県それぞれの1人当たり県民所得と東京都を除く46道府県の1人当たり県民所得の変動係数を見たものである(注2)。棒グラフの高さは、その乖離を示している。東京一極集中が社会問題化された80年代後半のバブル経済の時期では、棒グラフの高さの推移から見て確かに東京の存在が大きくなってきている。バブル崩壊後は、東京の影響は小さくなっている。しかしながら、21世紀に入って再び東京の格差における存在が大きくなってきていることがわかる。

図表2:変動係数による1人当たりの県民所得格差の推移
図表2:変動係数による1人当たりの県民所得格差の推移
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「県民経済計算(内閣府)」と「住民基本台帳人口移動報告(総務省)」から筆者作成

この地域格差、特に東京との所得格差は地域間の人口移動と強い相関がある。しかし、地域間格差と人口移動とは鶏と卵の関係でもある。格差があるから人口の移動が生まれるのか、それとも人口移動が格差を生み出しているのか。また、格差から人口移動が生まれても、その結果、格差は縮小するのか拡大するのか。こういった点をきちんと分析しておかないと、誤った政策を生み出すことになる。

人口の移動というのは、長期的には得られる効用のより高いところへと向かう。地域間の移動は、基本的に住むところと働くところが同時に変わるので、働ける雇用機会つまり所得と、住みやすさから決まってくる。しかし、それらのウェイトは圧倒的に所得水準にある。特に人口移動率の高い20~30歳代においては、「職」がないと生活できないからである。地方に、UターンやIターンする場合でも同様である。

人口移動で格差が縮小するのは、押し出す方の地方で余剰労働力があり、転出によって1人当たりの所得水準が結果として高まる場合である。高度経済成長期における地方から東京への人口移動がそれにあたる。格差で人口移動が生まれ、それによって格差が縮小に向かうという構図である。しかしながら、企業進出などによって地方にも雇用機会が生まれ、製造業からサービス産業へと産業構造の比重が変わってくると、そこには人口集積による規模の経済が働くまちの存在が重要になってくる。そうなると、転入先の大都市では賃金水準がより上昇することになり、人口移動が所得格差を広げるようになってしまう。

地域経済の設計 1. 比較優位の発見

総務省の「地方中枢拠点都市」構想では、人口20万人以上の地方中枢都市を軸に、周辺のまちが担えない都市機能を中核市が担っていくことを唱えている。国土交通省では、複数の都市を高速道路や鉄道でネットワーク化し、高次都市機能連合と同時に農村集落についても小さな拠点構想を打ち出している。

中枢拠点都市と周辺都市地域との関係で、より高度な都市機能は中枢都市が担わざるを得ないことはわかるが、それだと周辺市町村が中枢都市に一方的に依存する可能性が出てくる。したがって周辺市町村においても、その地域の比較優位な財やサービスを見出して、中枢都市との間での経済循環構造を築くことが重要である。人口集積に依存する都市機能の立地は難しいが、稼ぐ力を発揮することは可能である。

何でもって稼ぐか? しかも高齢者も付加価値に参加できるようなことは何か? それには、地域資源のストック調査と住民参加のワークショップが必要になってくる。

これらを実行することで、域外マネー獲得する産業をみつけることができるからである。もちろん、域外マネーを獲得する産業が必ずしも雇用を生み出すとは限らない。特に生産年齢人口の転入がないと、自然減が自然増を上回り続けて長期的に人口はゼロになる。その対策には、地域経済の循環構造を読み解くことが必要となってくる。これが新たな地域経済の設計へと繋がるのである。

地域経済の設計 2. 地域経済循環の把握

人口の小さな地域でも、農産品や水産品を移出することができる。また、規模は小さいながらも地域特性を活かした財やサービスを出荷することは可能である。しかし、往々にしてこれらは産業部門の上流部分に位置する一次産品であることから、その生産に対しての地域への波及効果は大きくなく、また雇用誘発も小さい。

そこにおいて、一次産品の直接的な移出に加えて、二次加工して販売していくことに経済循環的な意義が出て来る。これによって設備投資や新たな雇用が生まれる。さらに、地域で二次産品へのアイディアを出すことが生産のイノベーションにつながっていく。

こういった産業間の連関構造を見ることで、どの段階でイノベーションが生まれると地域経済がより活性化するか、という視点が得られる。マネーが循環すると、その分付加価値を生み出し、所得を生み出している。

生産に使われる原材料が域内にあるのに移入に依存していないかどうか。生産における中間投入の域内調達率はどの程度か。これらの率が高いと、川上の産業との地域内産業連関が密な中間財を需要する企業や最終財の消費者は便益を受ける。また、地域に財・サービスの需要先が確保されているかを調べておくことも重要である。域内で川下の需要が厚いと、川上で中間財を生産する企業は川下需要効果で活性化する。反対に、域内の産業連関が希薄な場合、移出の増加は中間投入を移入に依存することになり、必ずしも地域経済の発展には結びつかない。

そして、地域経済の循環構造を把握する主たるポイントとしては、
1)生み出された付加価値は地域に落ちているか
2)小売りなどに消費されたマネーは域内から流出していないか
3)貯蓄されたマネーは地域に再投資され、資金が循環しているか
などである。地域の経済、つまり「まちの経済」の(循環)構造を見極めることである。このような一連の分析プロセスを「地域経済構造分析」と呼んでいる(注3)。以下では、そのような例を1つ挙げる。

地域経済構造分析の事例

岡山県赤磐郡赤坂町(現在の赤磐市赤坂町)では、1997年から3年間、シンクタンクの協力を得て経済循環構造を調査し、町版の産業連関表とも言うべき「町内・町際取引表」を作成した。これによって、製造業は域外への出荷で資金獲得に責献しているものの、中間投入の大半が町外からの調達であり、町内資源を活用して製品を作る製造業者がほとんどいないことが明らかとなった。

さらに、町内の製造業従業者のうち町民が少なく、従業員給与に占める町内への分配が15%にすぎないことも判明。誘致した工場の多くは域内の資金循環が希薄な「地域外調達・地域外販売」で、地域経済や財政への効果が少ない構造であることがわかった。

一方で農業生産額は小さいものの、農業生産物の約86%が町外へ移出されていた。また町内での購入・分配率は76%と主要産業の中で最も高く、「地域内調達・地域外販売」で、地域経済への波及効果は製造業に比べて高いことがわかった。 同時に、町内で余剰となっているはずの農産品まで他地域から購入していたことも判明した。

このような分析の結果、赤坂町では地域の基盤産業の農業、特に米に着目し再生を図ったのである。単純に米を売るのではなく、付加価値を高めるため、製造と流通のプロセスを付け加えた。域外に出荷されていた地元産米を、町内需要以外をすべて町が農協から購入、それを原材料として地元の工場でおにぎりや弁当などに加工して販売、従業員は地元農家の主婦を中心に雇用した。地域の基盤産業である農業を軸に地域循環構造の確立に取り組んだ効果は、赤坂町で米加工工場の創業後5年間にわたって税収が増加したのに対して、同時期の県内他町村の税収が横ばいだったことに表れている。

政策の有効性

今回、政府の地域創生プログラムによって、様々な対策が講じられようとしている。しかし、その対策が果たして地域経済にとって効果的であるかどうかは判らない。有効な施策となるには、地域経済の構造分析を実施しておくことが不可欠である。地域経済というのは非常に開放性が高く、それは同時に効果の漏出が大きいことが挙げられるからだ。

そのためには地域の内外における取引表を作成することが必要である。これによって、域内と域外でのつきあいの状況が判り、より自立した地域経済の姿を探るシミュレーションも可能になる。また、地域におけるストック分析(賦与資源、人材など)を行うことで、比較優位なものが発見でき、それによって連担関係も構築できるのである。

季刊『企業経営』128号(一般財団法人 企業経営研究所)に掲載

脚注
  1. ^ 国勢調査から作成。市町村は2012年基準で、東京都23区は独立したものとして算入。
  2. ^ 「変動係数」とは、標準偏差を平均値で割ったもので、バラツキの程度を示すものである。
  3. ^ これについては、拙著「まちづくり構造改革:地域経済構造をデザインする」日本加除出版(2014年3月)に詳しい記述があるので、それを是非参考にして戴きたい。

2014年11月5日掲載

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