地域経済循環による自立と格差の解消を目指して

中村 良平
ファカルティフェロー

1.はじめに

国民経済は多くの地域経済から成り立っているので、各地域が活性化すれば自ずと国全体の成長力が高まることにつながる。閉塞感の漂う今こそ、新しい「地域経済の成長戦略」が実行されるときである。このとき、東京都も1つの地域経済を構成している。これまでは、東京都あるいは首都圏経済が日本経済を牽引し、多くの地方経済はその恩恵を間接的に受けてきた。(*1)つまり、首都圏経済が成長することで生み出される税収により引き起こされる地域間格差を是正するために、公共事業を地方に傾斜配分し工場を地方に分散してきたのである。

成長は英語でgrowthであり、発展はdevelopmentである。前者は人口や生産額など量的な側面での伸びを指すことが多いのに対して、後者は、sustainable development のように、自立性を含んだ成長の質的ニュアンスがある。したがって、財政移転からの公共事業や企業誘致に依存しすぎた地域の成長は、しばしば発展なき成長と言われる。実は、戦後の我が国の地域経済(正確には地方経済)は、この発展なき成長路線を歩んできたとも言える。(*2)

バブル経済崩壊後、長引く平成不況の中で地域間格差は縮小してきた。しかし、小泉内閣誕生の2001年度からは、景気は回復したものの地域間格差は拡大に転じた。これは、最新の統計で見ると2006年度まで続いている。この期間、生産水準の高い地域が相対的により成長しており、地域間の格差は拡大している。また、愛知県、三重県、栃木県、滋賀県、静岡県のように電気機械や輸送用機械といった製造業が集積した地域が、地域経済を牽引してきた。格差拡大期においては、これら移出産業の好調な地域の所得がより拡大し、低所得地域との格差を広げていったのである。

ところが、2008年9月15日にアメリカの名門証券会社で投資銀行でもあるリーマン・ブラザーズが連邦倒産法第11章の適用を連邦裁判所に申請すると発表して事実上破綻したことに端を発して、そのことが世界の金融市場のみならず景気そのものに大きな影響を与えた。我が国でも、輸送機械や電気機械などの移出産業、特に海外への輸出に経済が強く依存してきた地域は大きな打撃を受けている。また、同時に非常用雇用者の急激な削減や内定取り消しなど地域の労働市場における大きな社会問題を生み出している。

この状況が続けば、輸移出に依存して相対的に所得水準の高かった地域の落ち込みが生まれ、地域間格差は縮小に向かうことも予想されるが、同時に、税収の落ち込みによって地方交付税などによる財政移転も多くは望めないことになる。そうすると、非製造業で域外マネーを獲得してきた地域、特に東京を中心とした大都市圏と地方圏との格差が拡大することが懸念される。高度経済成長期を別にすれば、これまで景気後退期では地域間格差は多分に縮小してきた。しかし、これからの景気減退期においては、新たな地域間格差の拡大も懸念される。それは地方圏域の人口減少や生産年齢人口の減少等にともなう生産性の低下である。実際、2000年から2005年の5年間で、大都市圏に属する自治体の多くが人口増加傾向にあるのに対して、非都市圏の「市」では、その多くで人口が減少している。(*3)ここにおいても、大都市圏と非都市圏の格差が広がってきている。こういったことは、地方都市の自立性を喪失させ、格差拡大の悪循環をもたらす可能性を秘めているといえよう。

本稿では、こうした環境のなかで地域経済、より正確には地方経済が、持続可能な経済を維持するための理論を地域経済循環という観点から考える。

2.地域経済の自立と経済循環

2.1 地域経済循環の意義

まず、地域経済の持続可能性にとって、どうして経済循環の考え方が大切なのか、簡単なモデルで考えてみよう。

いま、ある町のお菓子屋さんの作るお菓子がヒットして、町中だけでなく隣町からも買い物に来たとしよう。これまでは、この町に住む人たちだけがお菓子を買っていたので、お菓子屋さんの収入源は地域の人々の財布からでていることになる。ところが、町外からの顧客の消費は、(当該地域にとっては)域外からの新たなマネーを獲得した事を意味する。(*4)お菓子屋さんは、この増えた収入でもって地元の地ビールを買ったとしよう。地ビール業者の人も収入が増えたので、そのお金でもってお菓子屋さんに行って従業員のおやつを買うことになった。そして、地ビールの生産者は販売額が増えるので、生産を増やそうと計画する。そのためには設備の更新も必要になるかも知れない。

これは、域外から獲得したマネー(お金)が地域内で循環していることを表している。つまり、資金が循環することとは、それが誰かの所得になっていることである。もちろん、域外からマネーを獲得せずとも、資金は域内を循環することができる。しかし、それではいずれ頭打ちとなる。ましてや、製造現場では資本は減耗する。更新投資も必要である。人口が一定で資本減耗のない世界では、域内循環だけで持続できるが、現実はそうではない。常に、域外市場からマネーを獲得することが持続可能性の必要条件である。これは国内からの場合は移出であり、海外からは輸出ということになる。域外からより多くの資金を獲得するには、より大きな市場で販売することが必要である。近隣のより大きな都市、さらに大都市圏で、そして国外市場といった感じである。一村一品運動などは、地域資源を使って域外マネーを獲得した典型例であろう。もちろん、どれだけ販売されたかという需要面だけがポイントではない。供給者(生産者や販売者)の方も、絶えず品質の向上につとめるべく技術革新が必要とされる。

ところが、せっかく獲得したマネーが域内を循環しないで、域外に還流していくことも少なからずある。それは域内で発生した需要が地域内で賄うことができずに域外に漏出して行くことを意味する。たとえば、域内に投資先がない場合とか、消費が域外に流出する場合、あるいは、中間投入の供給が域外に求められる場合である。先の例で言うと、地ビール需要増加に伴い、当然、原材料や中間投入が必要となってくる。また、公共事業でも、当然、建設資材が必要になってくる。こういったものが域内で供給されず、域外に依存してしまうことは、地域にとってはマネーの漏出を意味する。所得に関する乗数効果が減じられてしまうのである。

特に中間投入の調達が域外に依存している場合に、その依存している理由として、 (1)資源がない(そもそも供給できない) (2)資源はあるが供給企業がいない (3) 供給企業はいるが技術や納期などの問題がある などが想定できるが、それぞれにおいて、 (1)移出財でカバーする (2)誘致か育成か (3)技術向上など手だての可能性 などによって、自地域での供給(移入代替)の可能性はどうかを検討する必要がある。

2.2 地域自立の要件

国や地方自治体が考える地域振興による格差解消の伝統的とも言える手段として、公共事業と企業誘致がある。公共事業は主として建設業に雇用機会を生み出す。しかし、今日では財政的な制約から公共事業は縮小傾向にあり、これに頼ることはできない。他方、企業誘致、特に工場誘致はそれが大規模工場であれば、地域にそれなりの雇用機会を作り出す。ただし、それは比較的同質的な労働需要であり、雇用機会の多様性はそれ自体からは生まれない。

企業誘致を契機として地域に雇用機会の多様性が生まれるためには、誘致企業の川上部門(研究開発、中間投入部門の生産、アウトソーシングされる専門サービス供給部門など)、いわゆる取引相手が、圏域内に存在することが必要である。これは地域の雇用機会のみならず、マネーフローの域外への漏出を防ぎ、域内の経済循環を高めることにつながる。雇用機会と経済循環は密接な関係にあると言える。

そのためには、地域資源の有効利用(比較優位性)、域内に資金を呼び込む力(移出力)、域内の資金の流出を防ぐ力(循環性)といった地域の自立力が必要となる。また、その継続性に関しては、産業構成や職種構成における特化度や多様性から見た地域経済の安定性が必要となる。

地域資源の有効利用は、最近はやりの「地域ブランド」にも通じるところがあり、これは移出という形で域内に外部からマネーを呼び込むことになる。また、比較優位性を活かして地域の移出を高めていくのは地域自立の基本的概念であるが、時代(時間)とともに地域の比較優位性というものは変化する。それは、新たな競争地域の出現や需要地域の嗜好の変化などの理由による。したがって、絶えず比較優位なるものを作り出していく必要がある。地域間競争の文脈で考えると競争優位性の維持とも言える。グローバル化する地域経済環境において、地域の比較優位性や競争優位性の検証は、地域自立のための重要な課題と言えよう。地域自立の視点から比較優位性を生かした輸・移出力と地域格差の関係はこれまであまり言及されていなかった問題である。

上に述べた地域自立のための必要条件は、地域規模の問題を抜きにして考えられない。一定の経済規模(人口規模)があってはじめて地域経済の自立性が発揮される。それぞれの都市や地域が果たす役割は一国においてのみならず広域圏や都道府県内においても異なっており、それを考慮した自立性と都市規模・地域規模との関係を明確にすることは地域政策を考える上でも重要と思われる。

平成の大合併の対象となった人口規模の小さな自治体、経済基盤の脆弱な自治体の特徴は、域外からマネーを稼げていないことがあり、その分、地域経済の存立は地方交付税など所得再分配政策に依存している場合が多い。(*5)また、地域における域外市場産業が頑張って域外マネーを獲得しても、それが地域内で循環しないで域外に漏れていくことも多いのである。(*6)それは地域内に魅力ある投資先が見あたらず、資金が再び都市圏域に還流している意味でもある。こういった状況では、自立した地域経済、持続可能な地域社会を構築できない。

3.地域経済循環の実践

3.1 岡山県赤坂町(現在の赤磐市赤坂地区)の例

地域経済の循環構造を(おそらく唯一)一地方自治体で推計を試みたのが岡山県赤坂町(現在の赤磐市)である。ここでは、その経緯と分析によって得られた赤坂町地域経済の循環構造の特徴を紹介する。

岡山県赤磐郡赤坂町(現在の赤磐市赤坂地区)は、岡山市の北20kmに位置し、岡山市内中心部から車で約30分程度の所にある人口が5300人程度の小さな町であった。総面積は 42.99 km2で、山林原野がその半分を占めている。また、2001年3月で65歳以上人口の比率は25.9%と過疎地に見られるような高い水準になっている。農業が主体で、特産品としては、この後紹介する朝日米の他、マスカットやピオーネ、いちごなどの果物類などがある。観光施設としては、サッポロワインの生産工場の(株)サッポロワイナリィがあり、年間約10万人程度の来客がある。

この赤坂町における地域振興のきっかけは、1991年(平成3年)に元岡山県商工部長の難波勉氏が町長に就任したことにある。難波町長は、「雇用力のある企業を創らないと住民は逃げていく」と考え、それを成した上で「自治体は町の経済力に応じた政策を選択すべき」であるとした。そして、初当選から1年半後の1992年(平成4年)6月に(株)三井物産と「町おこしに関する業務提携」を結んだ。さらに1994年度(平成6年度)の事業で東京のさくら総研(当時)と「地域経済循環構造の定量的把握の枠組み調査」に関して3年間の委託契約を結んだ。この背景には、産業政策を立案しても、それが町内経済にどのように波及効果をもたらすかを裏付けるデータのなさがあった。「赤坂町版産業連関表」の調査では、域内経済と域外への移出、域外からの移入を中心にヒアリング調査を実施した。それによって、意外な結果がわかったのである。

赤坂町全体の産出額(中間投入額+付加価値額)の購入元とどこにいくらお金が落ちているかといった分配状況を「町内・町際取引表」から見てみると、赤坂町に37%、岡山市26%、赤磐郡10%、県下その他地域6%、県外に7%であった。また、支出割合を「町内・町際支出表」で見てみると、赤坂町52%、岡山市19%、赤磐郡26%、県下その他地域2%、県外に1%であった。こうした結果から、赤坂町全体の経済循環構造は、大雑把に言って「域外調達・域外販売・域内消費」型を示していることが読み取れた。

産業別にみると、まず製造業であるが、原材料を仕入れて加工の上、出荷する工場が存在してはいるが、地元に落ちるカネはわずかであった。これは、工場出荷額が大きくても中間投入財の仕入れも大きく、差額(=付加価値)は少なくなっていることを意味している。わずかながらの付加価値ではあるが、一部が従業者の給与所得として支払われ、町内で買い物をすることで経済効果が生じ得る。しかし、従業員の多くは町の外から通ってきているケースが多く、消費は町内で行わず、経済効果は小さい。経済循環で示すと、[域外調達・域外販売・域外分配]型であり、移出と移入のバランスにもよるが、付加価値は域外へ流出していると言える。

建設業では、原材料の購入元は85%が町外からとなっており域外調達型である。販売(サービス)先は60%が町内、また付加価値の分配先は72%が町内となっており、域内需要型(販売・消費)となっている。建設業の多くは公共支出に拠っており、それは波及効果という面からすれば域内に原材料供給企業が少ないこともあり、決して高いとは言えない状況である。

商業については、町内に問屋機能はなく、域外の問屋から仕入れて小売りするリテール機能のみで、わずかなマージンしか残らない構造となっている。原材料の調達は発生しないため、営業・販売費、修繕費、保険料などの調達率で見てみると、町内が69%と高くなっていた。また、販売(消費)割合も67.4%が町内となっており、[域内調達・域内販売]型と言え、循環がうまくいっているようであるが、その分地域の景気動向、すなわち移出産業の動向に依存している。

観光では、テーマパークのような観光施設は、飲食・土産が内部で完結するため、地域にお金が落ちにくい仕組みとなっていることが判明した。また、最近の観光形態として、バスで複数の観光地に少しずつ立ち寄るだけのものもあり、こうした状況の中で、単に観光客数を増やしても意味はないということになった。

それでは赤坂町の場合の基盤産業とは何か? それは特化係数や移出産業の面からいうと農業であり工業である。農業は基盤産業であり、また地域の地場産業となっているが、工業は域外からの立地企業が中心である。米や果物、野菜など農業生産物は、その約86%が町外へ出荷(移出)されていた。しかし、同時に町内で余剰となっているはずの農産品まで他地域に依存している状況も判明したのである。赤坂町は、ここに製造と流通のプロセスを組み込み、農産品中心の農業を6次産業化したのである。すなわち、農家から農協へいって、そこから域外に出荷されていた米を、町が農協から町内需要以外をすべて購入し、それを原材料としていわゆる食料加工品を製造するのである。それは、「赤坂天然ライス」という岡山朝日米を用いたおにぎりであり、弁当であり、おはぎであったりする。

これによって、食品加工という製造工程を経ることで雇用がまず発生する。赤坂町の場合は、主に農家の主婦である。雇用者にとっては当然賃金という形で所得が入る。その発生した付加価値の内、分配された所得は、消費に回るのかそれとも将来の投資としての貯蓄に回るのであろうか? 一方、1997年10月からの1年間での18.3億円という売上額(出荷額)は、当然、そのほとんどが域外での消費から生み出されている。(*7)

販路開拓という具体的プロセスにおいて、域外の需要を創出したわけであるが、移出を増加させるには、如何にして域外の需要を顕在化させるかが重要なポイントとなり、このことに関してはコンサルタント契約を結んでいた(株)三井物産の威力は大きかったと思われる。

赤坂町の事例を経済学的に解釈すると、【町の基幹産業である農業を経済波及効果の大きな移出産業に脱皮させるのに、供給面における資本投資と人的投資を実施した】ということである。そこにおける具体的な方法としては、1番目が国の補助金、融資といった「外部資金や制度の有効活用」、2番目が首長の先見性やリーダシップ、コンサルタントの協力、住民のやる気などといった「人的資源の有効活用」、3番目が基盤産業の再生あるいは創出という「地域資源の活用」、そして、まずもって必要なのが「都市(町)の経済循環構造の把握」によってまちの経済力を把握することである。

3.2 島根県吉田村(現在の雲南市吉田町)の例

域外マネーを稼ぎ、それを地域内で循環させることに成功している典型的な例として、現在の雲南市吉田町(島根県)を挙げることができる。吉田町は、旧飯石郡吉田村で四町一村が一緒に合併して2004年11月に雲南市となった。

旧飯石郡吉田村は、中国山地の山間に位置する典型的な中山間地である。かつては「たたら製鉄」で栄えたこともある。そこで、豊富な森林資源を利用し、薪炭や製材で生計を立てるようになったが、これも燃料革命やプレハブ工法が拡大して人々は職を求めて次々と村を離れた。1955年に5000近かった人口は、1980年には2800人に減少した。

危機感を抱いた一部の住民は、過疎からの脱却を図るための方策を真剣に検討し始めた。まだ吉田村の頃、村民からの「一株5万円」によって村は、雇用の場の創出と地域産業の発展を目的とした物づくりを生業とする第三セクター方式の「(株)吉田ふるさと村」を作った。予想を大きく上回る出資が、村の団体、企業、住民から寄せられた。1985年4月である。

中心の食品加工販売部門では、地元の無・低農薬野菜や米などを主原料にして様々な加工食品を製造している。最も大きな比重を占めているのは、焼肉のたれやドレッシングなどの調味料である。その販路は、全国各地であるが、特に東京を中心とした関東地方が25%と多く、次いで地元県内、近畿地方となっている。最近では海外へも輸出している。

このようにして獲得した域外マネーを原資として管工事業及び水道施設の管理、温泉宿泊施設の管理運営、雲南市民バスの運転委託業務を行っている。旧吉田村には管工事業者がいなかった。雲南市内六町を貫く広域路線と吉田区域四路線でバス8台を運行している。お年寄りをはじめとする地域住民の貴重な交通手段となっている。また、温泉宿泊施設国民宿舎「清嵐荘」は、2004年の六町村合併と同時に雲南市から指定管理者として管理運営委託を受けた。厳しい運営が続いていた施設だが、雇用の場を守るものとして、公営国民宿舎のスタイルを打破し生まれ変わるべくサービスの向上を進めている。獲得した域外マネーでもって、それを地域の福祉サービスやさらなる産業振興(雇用確保)に再投資して、結果的にはマネーを域内に循環させているのである。

さらに、専用醤油の「おたまはん」を卵かけご飯とセットで販売し、全国に卵かけご飯ブームを巻き起こし、域外マネーを獲得したのである。

合併効果は、財政面のみ成らず地域振興の面でも考える必要がある。雲南市になることによって確かに吉田村の名前は消えたが、吉田村の取り組みは合併した他の四町にとっては共有の財産となる。それまでは、隣の村がよくやっているとうらやましく見ていたこと、つまり外部経済であったことが内部経済として対応できるし、それを享受できるのである。

4.おわりに:地域格差の内生的な解消に向けて

赤坂町や吉田村の内発的とも言われる地域経済循環の構築例を示したが、こういった事例の多くは人口が1万人未満の町村においてである。しかし、人口5000人の町村が100頑張ってもトータルとしては50万人規模の都市における効果にしかならないので、マクロとしての効果はそれほど大きくない。もちろん、そういったノウハウ等を伝搬させる必要性はあるが、小さな町村が頑張っているから非常に目立つ部分もある。

市町村合併したところは別として、5万人から15万人位のいわゆる中小都市を数えると、320ぐらいあって、その合計人口は3200万程度になる。もちろんその5万から15万の中に三大都市圏の市町村もあるわけだが、それを除いても人口は2800万ぐらいある。したがって、そういった中小の地方都市が頑張れば、それが首都圏に匹敵するような力となる。中小の地方都市がいかに自立して、それが持続的な地域経済を保っていくかということは、今後の地域間格差を是正していく上でも非常に重要なことである。

公共事業や企業誘致は、地域にとっては外部経済に依存した言わば外生的な地域振興策であった。財政難の時代においては、交付税といった所得移転や公共事業に依存することはできない。企業誘致も域外資本に依存したものであり、立地は内外の景気動向に大きく左右される。このような状況では、地域振興の原点に立ち返り、地域にある域外市場産業を活性化する必要がある。それは、域外市場産業を識別し、必要に応じて再生させる、また創出することである。(*8)そして、どこの地域から外貨を稼いでくるかといった戦略が必要である。さらに稼いだ域外マネーを今度は地域内でいかに循環させるかについての産業構造の構築が波及効果を漏らさない意味で重要となってくる。地域資源を生かした農工商連携は、1つの地域経済循環モデルである。

また本稿では触れなかったが、「循環」という言葉には、資源循環という環境の側面も併せ持っている。地域資源には、自然資源や人的資源がある。地方が大都市圏に対して比較優位なものは、当然のことながら、森林資源、水産資源、土地資源といった自然資源である。こういった比較優位な資源を活用することで大都市圏との格差を縮小することができる。たとえば、森林資源の豊富な地方では二酸化炭素の吸収源という資源を持っている。また、バイオマスを使ったエネルギーを生産できる環境にもある。しかしながら、地方圏では産業振興するにはしばしば資金不足で、投資機会も少ない。したがって、たとえ域外マネーが入ってきても十分に循環されずに域外に還流してしまうことが多い。それは多くの地方圏で投資不足の結果、貯蓄超過となっている状況からも明らかである。他方、大都市部では投資機会はあるものの、企業集積とそのオフィス活動から排出される大量の二酸化炭素を大きく削減することは容易ではない。こういった場合に、大都市は地方から排出権を購入することによって削減目標を実現可能なものとし、また地方は豊富な自然資源を背景に排出権を売却する(すなわち資源を暗に移出する)ことによって資金を獲得できる。これは、地方が他力本願ではない地域の資源を生かした内生的な格差是正といえる。

いずれにしても地域資源を生かした域外市場産業による域外マネーの獲得と、それを域内市場産業で循環させるのが自立的な地域経済のあるべき姿である。

『JOYO ARC』2009年9月号(財団法人 常陽地域研究センター)に掲載

脚注

  • *1 もちろんバブル経済のように負の効果を地方が受けてきたこともある。
  • *2 安東誠一「地方の経済学」日本経済新聞社,1986年.
  • *3 日本全体の人口は2005年をピークとして減少に転じている。
  • *4 観光客の消費も同様である。
  • *5 徳島県の上勝町、高知県の馬路村、岐阜県の明宝村(現在の郡上市)など、域外マネーを多く獲得している小規模自治体も多くはないが存在する。
  • *6 域外市場産業とは、生産物やサービスの多くを域外に出荷・販売している「域外を主たる市場としている産業」のことを意味する。観光も域外市場産業に属する。
  • *7 2000年9月期の決算では、売上高は23.4億円となっており、3年間で10億円近い増加となっている。
  • *8 旧赤坂町や旧吉田村の事例は、大いに参考になるであろう。

2009年12月21日掲載

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