日本企業の海外進出と国内における女性活躍

執筆者 倪 彬(法政大学)/小橋 文子(慶應義塾大学)/殷 婷(研究員(特任))
発行日/NO. 2025年9月  25-J-024
研究プロジェクト コロナ禍における日中少子高齢化問題に関する経済分析
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概要

本稿では、グローバルに事業を展開する企業ほど、女性活躍推進に関する制度変更を契機として企業内の男女賃金差を縮小させたのかを実証的に検証する。具体的には、賃金構造基本統計調査と経済産業省企業活動基本調査を接続したデータセットを構築し、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)による制度変更前後での男女賃金差の変化を、三重差分法を用いて、海外直接投資(FDI)の有無や規模、地理的展開の差異を考慮しながら推定した。分析の結果、FDI を行っている企業は、そうでない企業に比べ、制度変更後に男女賃金差を統計的に有意に縮小させていることが示された。さらに、海外子会社数が多い企業ほど、その効果がより強く現れることも確認された。これらの結果は、グローバル展開の度合いが大きい企業ほど、制度変更に積極的に反応し、雇用調整やジェンダー平等な労働環境への改革に取り組む傾向があることを示唆している。加えて、日本との時差が大きい国・地域に進出している企業では、男女賃金差の縮小効果が相対的に弱まる傾向が観察された。これは、時差が大きいほど柔軟な勤務時間が求められ、女性労働者に不利な評価が下されやすく、制度の効果が抑制される可能性を示している。