やさしい経済学―地域経済を「見える化」する

第8回 データ分析人材育成カギ

中村 良平
ファカルティフェロー

安倍内閣が地方創生を打ち出して3年以上になりますが、「地方への新しい人の流れをつくる」といった基本目標の達成は容易ではありません。こうした時こそ、地域の経済循環の現状を精査することにより、地域の強みと弱みを把握することが重要になります。

地方創生の総合戦略の個々の施策は相互につながりがあります。例えば、移住促進という施策は人口維持のためだけではなく、どのような移住者であれば地域の産業振興に貢献してもらえるか、といったように他部門の施策と連動させて考える必要があります。

地域経済構造分析の目標は、地域経済の構造を産業連関分析などの手法を応用してシミュレーションし、「見える化」することにあります。これによって「まちづくり」という定性的に扱いがちなテーマに、データ分析という定量的な視点を付け加えるのです。

地域経済構造分析は、そこから直接、施策を導き出せはしませんが、施策を考えるための重要で客観的な情報や施策のヒントを示してくれます。具体的な施策を考えるのは結局は「ひと」です。企業の経営戦略をひとが考えるのと同様、地方創生の具体的な施策もひとが考えるものです。

今後、ますます地域経済が「見える化」され、経済構造の分析が進んでいくと考えられます。同時に「客観的な証拠に基づく政策立案」が求められるようになるでしょう。そのため、見える化された地域経済を読み解く人材の育成が重要になってきます。

そのため、例えば和歌山県は総務省統計局・統計センターと連携して、4月にデータ利活用推進センターを和歌山市内に設置しました。県内高等教育機関におけるデータサイエンス人材の育成や民間企業へのデータ利活用推進などに取り組む予定です。隣接して総務省の統計データ利活用センターもオープンし、民間のビッグデータと公的統計データを組み合わせて活用する方法を研究します。

地方創生を進めるには、データ分析に基づいて施策を立案できる人材が不可欠になっているのです。

2018年5月8日 日本経済新聞「やさしい経済学―地域経済を『見える化』する」に掲載

2018年5月21日掲載

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