やさしい経済学―地域経済を「見える化」する

第7回 自治体の産業連関表を作成

中村 良平
ファカルティフェロー

前回に述べた地域経済構造分析のため、地方自治体レベルで産業連関表を作成しようとする動きが近年、活発化しています。産業連関表は産業相互間と、域際の財・サービスの年間の取引状況を一覧できる統計表です。全国と都道府県ではおおむね5年ごとに作成されていますが、基礎自治体では従来、ほとんど作成されていませんでした。

兵庫県の朝来市は2013年度の経済成長戦略策定に先立って市の産業連関表を作成し、竹田城の観光効果を高める戦略や農産品のブランド化、六次産業化などに関して移出と循環効果を分析しました。この分析によって経済効果を見込める事業に絞り込み、戦略を策定したのです。そして16年度に産業連関表を更新したことにより、経済成長戦略で実施した事業について、KPI(重要業績評価指標)に基づいてPDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルを実践することも可能になりました。

松山市は16年に産業連関表を作成し、地域経済分析システム(RESAS)との併用で、経済の見える化を推進しました。これまで感覚や経験で捉えていた経済実態が明確になり、地域経済への影響度などから有望産業を抽出して企業立地戦略に生かしています。

また愛媛県新居浜市は、地元経済の中核である住友系企業の貢献度合いを数値化するとともに、課題を洗い出して新たな発展を探るために地域経済構造分析を実施しました。その結果、住友関連企業の波及効果は大きいものの、稼いだマネーを域内で循環させる仕組みを構築する必要があると判明しました。そこで同市は、域内の経済循環を拡大する目的で、地域の中核企業と中小企業とのマッチングや取引拡大を促す新規事業を始めています。

宮崎県小林市は、16年度のふるさと納税の返礼品(3億2000万円分)がもたらした生産誘発効果は1.23倍、同じものが市内で消費された場合の生産誘発効果は1.6倍になると試算しました。そして、六次産業化やスポーツ大会誘致をはじめとする施策全般について、地域の経済循環をより意識して、地元への経済効果を高める方向で捉え直そうとしています。

2018年5月4日 日本経済新聞「やさしい経済学―地域経済を『見える化』する」に掲載

2018年5月21日掲載

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