やさしい経済学―地域経済を「見える化」する

第6回 経済構造を多角的に分析

中村 良平
ファカルティフェロー

地域の経済循環を改善するにはどうすればいいでしょうか。そのためには地域の経済力を知り、何が充足して何が不足しているかを見極めることが必要です。そして、どこに循環の漏れがあるのかを見いだすことです。それは地域経済の構造分析につながります。

地域経済の構造的問題点を抽出し、その処方箋を書くための分析を地域経済構造分析と呼んでいます。これは「地域経済の循環分析」「地域経済のポートフォリ才分析」「地域経済の資産分析」の3つからなります。

「地域経済の循環分析」は、地域からの財の出荷や、サービスの移出により、地域の外からお金をどの程度稼いでいるか、そして、地域の産業が稼いだお金がどの程度、地域の住民の所得に結びついているか、また、地域外に流出している消費はどの程度か、などを把握するものです。

地域経済の循環分析には財貨のフローを見る実物経済の分析に加えて、金融経済を見る資金循環分析もあります。財の取引を伴わないマネーフローの多くは信用取引によるものですが、年金や交付金、さらには企業や家計の送金なども実物の取引を伴わないマネーのみの移動になります。

2つ目の「地域経済のポートフォリオ分析」は、保有株式のポートフォリオ分析の手法を参考にしたものです。地域に立地する産業の付加価値の増加率をリターン(収益性)、期間によるその分散(標準偏差)をリスクと考えます。複数期間を平均した収益性は高いが変動も大きい産業はハイリターンハイリスク、逆に収益性は低いが変動も小さい産業はローリターンーローリスクになります。

地域にとっては域内の産業全体の収益性は高い方が好ましい一方、変動が小さい方が急激な円高などの外的経済ショックに弾力的に対応しやすく、安定性が高いと考えられます。現状を把握したうえで、より望ましい産業構成を模索していくことになります。

3つ目の「地域経済の資産分析」は、地域経済のフローの循環を生み出す源泉のストックについて分析するものです。地域内の有形無形の資産分析をすることは、比較優位の発見につながる可能性もあります。

2018年5月3日 日本経済新聞「やさしい経済学―地域経済を『見える化』する」に掲載

2018年5月21日掲載

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