やさしい経済学―地域経済を「見える化」する

第5回 域内の優位なモノ磨く

中村 良平
ファカルティフェロー

地域内で経済が循環するための必要条件として、域内に立地する企業や居住する消費者など経済主体間の「つながり」が挙げられます。このつながりの程度を間接的に判断する指標として、「経済基盤乗数」があります。これは地域の移出産業に対する非移出産業の割合から求める数値で、雇用波及効果の大きさを表すものです。

日本全体でのモノやマネーの大きな経済循環に比べて、市町村レベルではもっと身近な、小さな循環を考えることになります。地域内での経済循環を大きくする方策として、地域からのマネーの漏出を防ごうと、地元産品の購入や地元の小売店での買い物が推奨されることがあります。いわゆる地産地消の実践です。確かにこれによって域外への所得の漏れは小さくなり、地域の経済循環効果も大きくなるでしょう。

ただ、これを追求することが地域にとって本当に望ましいかどうかについては疑問もあります。同じ品質であればより低価格のものを、同じ価格であればより品質の良いものを消費者は選択したいでしょう。地元産品を地元の小売店で購入すれば所得の流出は防げますが、それが行き過ぎると高コスト構造になり、地域の居住者の効用はかえって低下します。地元の高いものを買うことは生産者の利潤を増やす半面、消費者にとっての効用を低下させるのです。

また、地域内での経済循環効果が大きくなれば、その地域にモノを売っていた他の地域の移出効果は低下することになります。経済循環の一面だけを見て判断すべきではありません。

地域の経済循環を大きくするうえで望ましいのは、比較劣位のモノや域内にはないモノは域外に依存する一方、域内にある優位なモノを磨いて外からマネーを獲得することです。

"外貨"獲得のために移出産業を育成することは必要ですが、地域経済の規模が小さく産業集積が薄い場合は、移出の増加に伴い、場合によってはそれ以上に移入が増えることになりかねません。あらかじめ、移出部門の投入産出構造を把握しておく必要があります。地域の身の丈に合った自給が大切なのです。

2018年5月2日 日本経済新聞「やさしい経済学―地域経済を『見える化』する」に掲載

2018年5月21日掲載

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