やさしい経済学―地域経済を「見える化」する

第4回 マネーの循環 捕捉が必要

中村 良平
ファカルティフェロー

地域経済におけるマネーの循環は、体内の血液循環と同様、とても重要です。地域での経済循環を活性化する手段としてよく挙がるのが「地産地消」です。

「地産地消」の究極は「自産自消」です。つまり、自分の裏庭で生産し消費するということですが、これでは付加価値は生まれません。自分の生産した物を他人に売ると、生産コストに加えて付加価値という利益が生まれます。この利益は購入する側にとっては「便益」として評価されます。「自産自消」は自分でその便益を吸収することを意味します。

地域経済は循環だけでは持続可能になりません。例えば、固定資本は減耗するので、人口が増えていなくても経済活動を維持するには更新投資が必要です。それには新たなマネーが必要になります。

地域経済の循環システムは、一般に生産・分配・支出の三面から見ますが、地域の経済は開放的なため、多くのマネーの流入と流出があります。生産面では、産出物を域外へ出荷して域外マネーを獲得する一方、生産活動に必要な原材料や中間財を域外から調達することでマネーが流出します。生産によって生まれた付加価値は、それに貢献した主体に賃金や配当、地代などとして分配されますが、域外からの通勤者や域外に居住する資本家に分配されるマネーは地域の外に流出してしまいます。

所得になったマネーは課税後、消費に回るか貯蓄されます。購入した消費財が域外から移入されたものであれば、それはマネーが地域から流出することになります。貯蓄に回ったマネーは金融機関の融資を通じて投資に充てられますが、たとえ域内で投資されても、資材を域内で調達できなければ、その移入によってマネーが流出することになります。域外に投資される場合、マネーは流出し、投資によって形成されるストックはこの地域以外の資産となります。

このように地域経済は漏出も多いので、それをきちんと捕捉しないと三面等価は成り立たなくなります。地域経済分析システム(RESAS)を使うと、このかなりの部分を市町村単位で見ることができます。

2018年5月1日 日本経済新聞「やさしい経済学―地域経済を『見える化』する」に掲載

2018年5月21日掲載

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