やさしい経済学―地域経済を「見える化」する

第3回 データ分析のモデル必要

中村 良平
ファカルティフェロー

国の地域経済分析システム(RESAS)は2015年の運用開始以降、データベースが次々と充実してきました。しかし、データがあっても、それを分析する理論(モデル)がなければ、有効な施策にまで到達できません。良好な漁場があって漁獲量は多くても、上手にさばくことができなければおいしく食べられないのと同じことです。

そこでデータをどのように読み解いていくかが課題になります。それには規範的モデルと問題解決のストーリーが必要となります。「ここがこうだから、ここはこうなっている(はず)」、そして「ここをこうすれば、ここがこうなる(はず)」といった因果関係の明確化、その関係についての仮説の確認や検証です。

データの見方としては、他の市町村との比較のように横断面で見ることが1つ考えられます。もう1つは全国の変化の状況との比較のように時系列で見る方法です。その時に必ず意識しておく必要があるのが、因果関係を念頭においてデータを見るということです。

因果関係は、例えば「まちの所得が大きいと、そのまちの小売販売額は高くなる(はず)」といったことです。また、「資本労働比率が高いと労働生産性は高くなる(はず)」というモデルもあります。対個人サービス業の場合、人口集積が高いとサービス効率は高まるので、「1人当たり収入額は人口集積とともに高まる(はず)」という考え方もあります。

所得と小売販売額の関係を例に挙げてみましょう。横軸に市町村の所得額、縦軸に小売売上高をとり、県内市町村をプロットして、回帰線を表示します。これは縦方向のバラツキを最も説明できるように導かれた所得と売上高の関係を示す基準線です。各市町村は回帰線を挟んで、その上下に位置しますが、なぜ乖離(かいり)しているのかを考えることが大切です。

例えば、所得の割に売上高が多い地域は、他から消費が流入していると考えられます。逆に回帰線より下の市町村は、所得が地域の売上高に十分結びついていないことがわかります。その理由を考えることが、施策を考えるための次のステップになるのです。

2018年4月30日 日本経済新聞「やさしい経済学―地域経済を『見える化』する」に掲載

2018年5月21日掲載

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