やさしい経済学―地域経済を「見える化」する

第1回 データを基に域内循環把握

中村 良平
ファカルティフェロー

安倍内閣が2014年に「地方創生」という言葉を使い始めてから4年近くになります。その中心課題は地方の人口減を食い止めることと持続可能な地域経済の形成です。そのために、ほとんどの地方自治体が将来人口を展望した「地方人口ビジョン」と、それを土台にした「地方版総合戦略」を作成してきました。

この地方創生という言葉は「新たな地方を生み、創る」と読み取れ、クリエイティブな響きがあります。しかし、つまりは地域振興のことであり、地方活性化策として過去に何度も講じられてきました。例えば、竹下内閣は「ふるさと創生事業」を打ち出し、1988、89年度に全国の市区町村が自由に使える交付金1億円を配分しました。自治体のユニークな使い方が話題になりましたが、その経済活性化効果が検証されたという記憶はありません。

また小渕内閣は99年に1人2万円分の「地域振興券」を配りましたが、対象を高齢者や子育て世帯に限ったこともあって家計消費支出に目立った増加はなく、景気回復に結びついたとの評価もありません。その後も、福田内閣の時には「地方再生」がありました。

今回の地方創生についても、自治体が取り組むにあたって同様の課題があります。外国人観光客の増加を地域の活性化につなげたいと考える自治体は多いですが、どのように検証すればいいでしょうか。あるいは地域に立地する製造業の受注が増えたとして、それがどの程度、地域に還元されるのでしょうか。イベントを開催しても、その効果は実際には、どこ(誰)に波及しているのでしょうか。

これらはいずれも地域内の経済のつながりを数字で把握する、つまりは地域の「経済循環」のあり方を把握することが必要だということを示しています。そのためには、データを基に地域経済を「見える化」することが重要になります。この連載では、データに基づいて地域経済を「見える化」し、地域の経済構造を把握する意義やその方法、課題などについて実例を交えて解説していきます。

2018年4月26日 日本経済新聞「やさしい経済学―地域経済を『見える化』する」に掲載

2018年5月21日掲載

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