AIは生産性をどの程度高めるか

森川 正之
特別上席研究員(特任)

潜在成長率が低迷するとともに人手不足が深刻化する中、人工知能(AI)による生産性向上への期待が大きい。高市早苗内閣が進める危機管理・成長投資政策では、「AI・半導体」が戦略17分野の筆頭に掲げられている。

AIの定量的な経済効果は、世界中の研究者が取り組んでいる最先端のテーマだ。多くはAIが生産性を高めることを示しているが、米欧における試算値は年率0.1%未満から1%超まで極めて幅が広く、コンセンサスにはほど遠い。だが、この値はマクロ経済運営に大きく影響する。そこで就労者を対象に最近行った調査をもとに、日本の生産性上昇率への量的な効果を大胆に推察してみる。

仕事にAIを利用している人は1年前の2倍以上に増え、全体の20%を超えた。だが、生産性への効果は利用者数だけでは測れない。仕事全体のうちどれくらいの業務に使っているか、業務効率がどれだけ高まったかに依存する。ほとんどの場合、AIを利用する業務は労働時間の一部に過ぎない。AIへの代替で仕事が失われるリスクが指摘されているが、多くの就労者は省力化のメリットを享受し、AIで節約された時間を別の業務に振り向けている。

AI利用者の業務効率化効果に、AIを利用する業務割合を掛けた、生産性向上効果の平均値は6%である。この数値をもとに考えれば、利用していない就労者を含めた日本経済全体の労働生産性「水準」は、AIがなかった場合に比べて1%以上高まっている計算になる。

今後はどうだろう。これから仕事にAIを使おうと考える人は多い。既に利用している人の生産性が、学習効果を通じてさらに向上する効果と合わせると、今後数年間、AIの利用拡大が労働生産性を年率0.3%前後高め、生産性上昇率を過去数年間と比べて0.1ポイント程度「加速」させると概算される。

ただし、これは省力化効果だけを見た数値で、AIが革新的な新製品や新サービスの創出を促進する効果も考慮する必要がある。イノベーションは生産性上昇の原動力であり、AIが研究開発を効率化すれば、研究者の数が増えるのと類似の効果を持つからだ。実際、AIが利用されている業務の中では研究開発が最も多く、非製造業よりも製造業、特に研究開発集約度の高い機械工業で顕著だ。そして研究開発業務でのAI利用は、日本経済の生産性「上昇率」を年率0.1ポイント前後高めると考えられる。研究開発プロセスでのAI活用が広がればより大きくなりうる。

以上を合わせると、今後数年間の日本の生産性上昇率は、AIの利用拡大で0.2ポイント前後高まる可能性があるというのが現時点での予想だ。意外に小さく見えるかもしれないが、足元で0.5%以下の日本の生産性上昇率に照らすと相当大きい。もちろんこの数字は政策効果を示すものではなく、限られた情報に基づく量的イメージをつかむための機械的な計算であり、不確実性は高い。また、より長期の経済効果はAI技術自体の進化や経済構造の変化もあるため、予測は難しい。

2026年4月3日 日本経済新聞「エコノミスト360°視点」に掲載

2026年4月9日掲載

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