成長戦略で看過されがちな論点

森川 正之
特別上席研究員(特任)

2026年度政府経済見通しは、実質国内総生産(GDP)成長率を1.3%と予測する。0.5%前後の潜在成長率と比べてかなり高いが、周知の通り政府経済見通しには上方バイアスがある。

新型コロナ危機のような異常時だけでなく平時でも過大な見通しが常態化し、実績値の下振れが続いてきた。近年は次年度予算編成の前に、補正予算を伴う大型の経済対策を策定するのが慣例になっており、そのマクロ経済効果の試算値が公表される。先般の経済対策の場合、実質GDP成長率を今後3年間、年率1.4%高めるという大きな数字だ。政府経済見通しのバイアスにはおそらくこうした事情も関係している。

日本経済は長期にわたったデフレとゼロ金利という異常な状態を抜け、物価が上昇し、金利が存在する普通の経済になってきた。デフレギャップが解消し、人手不足が一段と深刻化する中で必要な経済政策は、もちろん需要創出ではなく生産性を高め、潜在成長率を引き上げる政策だ。

高市早苗内閣は「日本成長戦略会議」を立ち上げ、「強い経済」実現に向けイノベーションや人材育成などに取り組み始めた。供給力を高めようとする政策の方向は正しいが、需要追加型の政策と違い目に見える効果が表れるには時間がかかる。地道な努力を辛抱強く続ける必要がある。

一般に成長戦略では、経済成長率を高めようとする政策メニューが並ぶが、成長率を押し下げる要因を取り除く視点は看過されがちだ。一例が政府規制で、規制や税・社会保障制度などのルールへのコンプライアンスのため、総労働時間の2割近くが投入されている。いわゆる社会的規制を中心に許認可数は年率2〜3%で増加し、潜在成長率を下押ししている。労働時間規制の緩和が議論されているが、供給力に寄与しない労働投入を削減できれば実効労働供給量を増やせる。そうした政策は企業からも労働者からも支持されるだろう。

もう一つの例が、異常な状態が続く政府債務だ。先述した楽観的な経済予測も債務増大の一因となる。政府債務が経済成長率に与える影響について経済学者の間でコンセンサスはないが、過大な政府債務や財政破綻リスクが経済成長率を押し下げることを示す研究は多い。金利が上昇する中、高水準の政府債務は民間投資を抑制し、成長戦略の足を引っ張る恐れがある。

膨大な債務残高にもかかわらず日本の財政が破綻しない謎を巡っては、様々な理由が指摘されている。もちろん低金利はその有力な要因だ。低金利の下では増税なしに政府支出を拡大する余地があったが、そうした状況は過去のものになりつつある。

国民の主観的リスクを調査した結果によれば、10年以内に政府財政が破綻する確率の平均値は約20%で、資源・エネルギーの供給途絶リスクと同程度である。経済安全保障上のリスクだけでなく、内発的なリスクにも対処する必要がある。少なくとも平時の基礎的財政収支を黒字化することが、突然のショックを避けるだけでなく供給力を高めるためにも重要である。

2026年1月16日 日本経済新聞「エコノミスト360°視点」に掲載

2026年1月20日掲載

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