サービスロボット導入の経済効果

森川 正之
特別上席研究員(特任)

日本は産業用ロボットの先進国で、早くから工場へのロボット導入が進み、製造業の生産性上昇に貢献してきた。一方、最近は人手不足が深刻化している介護、医療、飲食、建設などの分野でサービスロボットへの期待が高い。

ロボットは人工知能(AI)技術と日本が強みを持つ機械技術の融合領域で、需要の伸びも見込まれる。産業政策の最重要分野の一つといえる。政府は10年前に「ロボット新戦略」を決定し、成長戦略でも毎年のようにサービス分野のロボット開発がうたわれてきた。今年の「骨太方針」は、AIや先端半導体の実装先となるロボットに関する戦略を策定するとしている。

古くから自動販売機、自動改札など様々なサービス自動化技術が利用され、省力化と生産性向上に貢献してきた。近年はセルフレジ導入が急速に進んでいる。セルフレジの普及には消費者の受容性が不可欠だが、意外にも人間によるレジより、セルフレジの方がよいと感じる人は、若年層を中心にずっと多い。

ヒト型の二足歩行ロボットの開発が最近注目されている。しかし、人間のように多様な非定型的業務をこなせる汎用ロボットの開発は技術的に難しい。普及が進むサービスロボットは特定のタスクに絞った単能機であり、当面はそうした状況が続くだろう。

2006年に始まった「ロボット大賞」でも、物流、介護、医療、飲食、清掃、警備など特定のタスクを担うロボットの受賞が多い。国際ロボット連盟の年次リポートによれば、こうした専門サービス向けロボット販売量は世界で前年比30%増加しており、今後3年間は年率41%の増加が予測されている。

自動化技術に関する経済学の研究は急速に進展している。国際ロボット連盟の産業用ロボットのデータを用いた実証研究が世界各国で行われているほか、日本ロボット工業会のデータを利用した優れた研究もあり、多くが生産性向上効果を示している。だが、データ制約のため、サービスロボットを対象とした研究は驚くほど少ない。

介護ロボット導入が生産性や雇用に及ぼす効果を分析した、飯塚敏晃東京大学教授らの研究はまれな例である。それによると、日本の介護施設の4分の3がモニタリング、移動用、運搬用のロボットのいずれかを導入し、介護サービスの質と生産性を高めているほか、介護職員の離職減少にもつながっている。

サービスロボット全体ではどの程度の経済効果があるのだろうか。筆者の調査によれば、サービスロボットを利用している職場は約4%で、産業用ロボットに比べて少ないが、幅広い産業で使われている。導入効果にはかなり幅があるものの、平均で約20%の省力化効果がある。

興味深いのは、労働組合のある企業でサービスロボット導入が進んでいることだ。AIやロボットを利用している職場ではフレックスタイム、テレワークなど柔軟な働き方をしている労働者も多い。利用される職場や業務が拡大していけば、人手不足に悩む日本経済に様々な恩恵をもたらすと期待される。

2025年8月8日 日本経済新聞「エコノミスト360°視点」に掲載

2025年8月15日掲載

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