地方創生の本質

第6回 計画と経済のシンクロ

中村 良平
ファカルティフェロー

人口減少期を迎えた時代における地方創生というのは、まち全体での「一人当たりの生産性、もしくは所得」をいかに維持し、さらに高めていくかである。このためには新たな付加価値をまちが生み出すことが重要となる。それには、地域間連携もさることながら、創造的なアイディアを打ち出す人材、新たな財・サービスを生み出すイノベイティブな企業の存在、それと新機軸の政策のシナジー効果が不可欠である。これによってまちの稼ぐ力と雇用力が向上する。

都市の高齢化

しかしながら、現実はそう簡単ではない。人口減少と相まって、特に、まち全体が色々な意味で高齢化してきているからである。それは住んでいる人たちの年齢の高さだけでなく、都市にある諸々の施設の老朽化も進んでいることを意味する。

高度経済成長期からインフラが整備され、次々と公共施設が建てられてきたのだが、それらが年月を経て高齢化してきているのである。もちろん、インフラについては更新投資も行っているわけだが、公共施設等に対してはファシリティ・マネージメントという考えを用いて、地区の人口減少とともに公共施設を縮小や閉鎖すること、あるいはその再配置を考えようとしている。小中学校の閉鎖や統合がその典型例である。

当然のことながら、全ての市町村において人口が減少しているわけではない。人口が増えている市町村も存在する。ただ、そういった市町村もやがては自然減が社会増を上回る時代がやってくる。また、都市の内部構造を見ると、合併した自治体では、中心部の人口維持の一方、縁辺部は人口減が進んできているところが多い。郊外に向けてインフラ整備を行ってきた都市が、これからは維持管理費の増大と特に縁辺部の人口減少に伴い、人口のみならず施設なども集約方向に向かわざるをえなくなってきている。最近、耳にする縮小する(シュリンキング)都市の時代ともいえよう。

縁辺部の人口減少

表は、周辺の町を編入合併した姫路市について合併前の区域での人口と合併後の人口の推移を2005年、2010年、2015年の3時点で示したものである。表の4段目は、編入した町の人口である。ここで、旧市についてみると、微少ではあるが人口は増えていることがわかる。これに対して編入合併の町については、2005〜2010年、2010〜2015年ともに人口は減少している。これはポジティブに捉えるとコンパクト化が進んでいるようにも窺えるが、好むと好まざるに拘わらず縁辺部が衰退する構図になっている。実際は、高齢化による自然減の増加が背景にあることから、いいコンパクト化とはいえないであろう。

図1:合併に係わる人口推移:姫路市
2005年 2010年 2015年 2005〜2010年 2010〜2015年
姫路市 536,232 536,270 535,664 +38(0.0%) -606(-0.1%)
(旧)姫路市 482,304 485,992 488,459 +3,688(0.8%) +2,467(0.5%)
編入4町 53,928 50,278 47,205 -3,650(-6.8%) -3,073(-6.1%)

都市政策の課題

都市政策として、施設を再配置する、あるいは事業所の立地を誘導することを考える。人の再立地への誘導は容易ではないけれど、まだ事業所の誘導や施設の再配置はやりやすいであろう。その施策自体は、都市自体が再生産を繰り返してやっていけるようにこれからも長持ちしていく、延いては持続可能なまちづくりにつながっていくことになろう。

長い年月をかけて縁辺部から中心部へと人が移動し、縁辺部の人口が減ってくるとなると、解決すべき課題として、そういう状況下で土地を切り捨てないようなコンパクト化が必要となってくる。それは人口がいなくなってきたところに、かつて投資したところを自然に戻すとか、土地利用の活用法を考えていくことである。そして、都市は生業の場所でもあることから、どのような土地利用を実施すると都市全体にとって経済の活性化につながるかを目指すべきであり、これは都市計画と都市経済という経済を連動して考える必要性を意味している。冒頭に述べたことを具現化する必要条件でもある。

都市計画と都市経済のシンクロナイズ

「都市政策」という語感からは、それは国や地方自治体がおこなうまちづくりの具体的な方針をいうものとイメージできるが、その意味するところは、「住みやすいまちづくり」、「働けるまちづくり」(稼げる都市)を実現していくためのものである。建築規制や線引き、用途規制などを実施する「都市計画」はその1つの具体的手段ともいえよう。

最近数多くの自治体がその策定に取り組んできている「立地適正化計画」は都市の人口減少とコンパクト化を考えた「都市機能の再配置計画」という「都市計画」である(注1)。そして、「立地適正化計画」は、居住機能や医療・福祉・商業、公共交通等のさまざまな都市機能の誘導により、都市全域を見渡したマスタープランとして位置づけられる市町村マスタープランの高度化版と位置付けられている。

コンパクトシティも都市計画の手法だが、むしろ「まちづくり」の考えともいえる。そして、「都市計画」は我々が住んでいるところの道路状況とか景観、土地利用といった「まちの内部構造」を見ることが中心だが、もう1つまちづくりにとって重要な「まちの活性化」とか「産業振興」ということを積極的に見るものではない。

たとえば、土地利用の線引きにしても比較的現状追随型が多く、線引きをすることでの不動産価格に与える影響がどの様なものかを見るものとは本来的に異なる。実際、土地利用規制をすることによって規制をしないときよりも土地の価値が上回ることはない。規制は、最高に土地評価をする潜在的利用主体を排除する可能性があるからだ。しかし、これは土地利用の主体間に外部不経済がないことが条件である。もし規制によって外部不経済が軽減される場合だと、環境改善によって土地の評価が場所によっては上昇する場合も出てくる。こういったことは都市の中での経済活動に大きな影響を与え、同時に都市の稼ぐ力にも関係してくる。このような経済効果の認識と計測なくしては、意味のある土地利用計画とはいえない。

一般に、まちの産業振興というと、個々の企業の頑張りも当然必要なのだが、基本は「まちのマクロ経済」を見るものである。言い換えると、前者(都市計画)では「まちのなか」の空間的位置、つまり距離の概念が明示的に扱われることが多いのに対して、後者も「まち」と「まち」という地域間距離は扱うのだが、まちを単体としてとらえることが多い。

都市計画の考えのコンパクトシティが人口減少や高齢化といった今後の「まちづくりの必要条件」であることは、多くが認めるところである。しかし、それで「まちの経済がどうなる」というイメージは出てこない。そうなるには、都市計画の手法に都市経済学的な分析を導入する必要がある。たとえば、「コンパクト化で、新しい仕事を生み出すにはどういう空間立地(配置)が良いのか」という発想をもつことが必要となってくるであろう。都市が「どのような産業に重点をおき、稼ぐ力を顕在化していくか」という「まちの産業振興の都市政策」を考えるときには、都市計画と都市経済の考え方を連動させる必要性があると考えられる。

どのような土地利用を実施すれば、まち全体にとって経済が活性化するのか。こう考えると、土地利用という都市計画と産業振興という都市経済がどこかで連動して、リンクして考えていかないといけないことがわかる。

そうすると都市計画の土地利用で今後考えないといけない都市政策は、都市の価値を高めるための土地利用のあり方であり、そこには産業振興につながる都市経済学の分析が必要となってくるのである。また、産業振興の方でも地域の付加価値を高める(これは、まちの価値を高めることと同義)には、「資本投資」の企業誘致だけでなくて、どれだけ良い人材を持ってくるかという「人材投資」にも政策がつながってくる(注2)。これまでは、付加価値の拡大は必ずしも雇用を創出することと同値ではなかった。また、都市計画から流れてくる都市政策とは相容れないところもあった。しかしながら、都市の住む魅力と働く魅力を同時に追求する政策では、都市計画と都市経済のシンクロナイズが不可欠となることは必然的な帰結である。

まちのストック価値を高める

都市の価値を何で計ることができるだろうか? 1つにはそのまちに住みたいという人が沢山いれば、そのまちの価値は高いといえよう。といってもなかなかそれは客観的に指標化できない。最も分かりやすい指標として、これは土地の評価(価値)が考えられる。そこの土地に住みたい、そこの土地を利用したいという人が多くいれば、そこの土地の評価、価格は上がるはずだ。つまり土地価格を適切に高めることが必要な都市開発、都市計画のあり方が政策として大切になってくるのである。土地の価値が高いと収益還元のため土地が高度に利用されることにつながる。もちろん、土地は移動することができないことから外部経済と不経済がつきものなので、誘導と規制といった公共政策も必要となってくる。

そのまちの価値を高める手段にTIF(Tax Increment Financing)という「税収増加を前提とした公債発行による資金調達」というものがある。アメリカで取り入れられている都市開発の経済的手法であるが、なかでもオレゴン州ポートランド市開発局は、これによっていくつか成功を収めている。まず、一定のエリアを定め、そこの環境改善を図るプロジェクトを実施するのであるが、それに対して自らが債券を発行して資金調達をすることで基盤整備を行いつつ、域外からの投資を呼び込み、地区の不動産価値を上げるのである。そこでの債券発行は、不動産価値上昇から来る固定資産税の期待増収分を先取りして実行される。もちろん、すべての対象地区でうまくいったわけではないが、少なくとも(ポートランドでは)対象地区住民との間での「地区の価値を高める」には金銭投資以外にも具体的に何をすれば良いかということが話し合われていることに意義がある。まさに地域を経営するという感覚がある施策といえよう。

こういった考え方は、今や多くの市町村にとって喫緊の課題である空き家問題に対しても、不動産証券化やクラウドファンディングといった手法を取り入れて応用できるのではないだろうか。

『ひょうご自治』平成29年10月号に掲載

脚注
  1. ^ 国土交通省のホームページによれば、2017年3月31日時点で348都市が立地適正化計画について具体的な取組を行っていて、このうち112都市が同年7月1日までに計画を作成・公表ということである。
  2. ^ 生産額は、技術を所与とすれば資本と労働の投入量によって規定される。企業誘致は資本投入が増えることを意味するが、人材の誘致は労働の質を高め生産性を向上させる役割を持つ。

2018年4月6日掲載

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