多角化企業と組織資本の役割-財の新陳代謝を可能にする経営組織に関する実証分析-

執筆者 川上 淳之(東洋大学)/木内 康裕(学習院大学 / 日本生産性本部)/宮川 努(ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2025年12月  25-J-031
研究プロジェクト 包括的資本蓄積を通した生産性向上
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概要

経済の活性化や消費者の厚生水準の上昇の観点からは、企業の新陳代謝だけでなく、既存企業の財の新陳代謝も重要な課題である。しかし、企業が複数財を生産する多角化をどこまで行えばよいかということについては、古くから多くの議論がなされてきたが、決定的な結論は出ていない。

財の多角化の決定要因として企業の本社機能の役割が重視されてきたが、我々は、この本社機能について、その規模だけでなく効率性のパラメータを加えて実証分析を行った。生産性を向上させる本社機能の効率性は、業種によってばらつきがあり、電子応用装置・電子計測器や電子計算機・同付属装置で効率性が高い企業が多くなっている。

この本社機能の規模と効率性を説明変数として財の多角化への影響を調べると、本社機能の規模については、当初規模が大きくなるにつれて財の多角化は進むが、一定以上の規模を超えると財の多角化についてマイナスの影響を有するようになる。一方本社機能の効率性については、生産性の高い企業で有意に多角化を促進している。業種別にみると、製造業では財の多角化に貢献するものの、卸売・小売・宿泊・飲食サービス業では、むしろ本社機能のうち企画的な部署の規模が財の多角化に貢献するとの結果を得ている。製造業における本社機能の推計結果は、補論のヒアリングでもある程度確認できる。

Morikawa (2015)でも示されたように、本社機能は生産性向上に一定の役割を果たすが、それは適切な規模と効率性を備えている場合である。新製品開発についての助成に関する政策判断の際には、新製品自体の成長性に加えて、その企業が適切な本社機能を有しているかどうかも調べておく必要がある。