| 執筆者 | 川上 淳之(東洋大学)/木内 康裕(学習院大学 / 日本生産性本部)/宮川 努(ファカルティフェロー) |
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| 研究プロジェクト | 包括的資本蓄積を通した生産性向上 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
特定研究(第六期:2024〜2028年度)
「包括的資本蓄積を通した生産性向上」プロジェクト
生産性を向上させる考え方として、生産性の高い企業が市場に参入し、生産性の低い企業が市場から退出するプロセスが必要だとされている。このプロセスは、既存企業が製品構成を変える過程でも起こりうると考え、本社機能がどの程度このプロセスに関わっているかを実証的に分析している。
本社機能が、企業の多角化にどのような役割を果たしているかについては、相反する研究結果が出ている。多角化に伴う本社機能の肥大化が企業パフォーマンスを低下させるという見方がある一方、本社機能が生産性の向上に寄与しているという見方もあり、十分な結果が得られているとは言いがたい。本稿では、全要素生産性の背後に本社の規模と本社の効率性という二つの要因があると考えた上で、全要素生産性を媒介として、この二つの要因が、企業の多角化または企業の製品構成の変化にどのように関わっているかを検証している。
本稿の理論モデルでは、最適な企業の財の数は、企業のマークアップ率に依存する。財の価格は需要の大きさに依存するため財の数の変化は費用条件によって決まる。単位費用は、生産要素市場で決まる各生産要素の価格によって決まっているので、費用の条件は、単位費用を低下させる生産性に依存する。その生産性は本社規模と本社の効率性によって決まってくる。本社の効率性は生産性の上昇を通して、最適な財の数を増加させるが、本社規模は、生産性に対して曖昧な効果しか有しないので、財の数を増加させるかどうかも明確ではない。
上記の仮説を検証するため、本稿では従来取り上げられてきた本社機能の規模だけでなく、その効率性も加えて多角化の要因を分析した。本社規模は「企業活動基本調査」の本社機能従業者の情報を用い、本社機能の効率性は、複数財の生産関数の推計から企業レベルの全要素生産性に本社規模が与える効果を、ランダム係数モデルを用いることで推計した。図ではこの本社機能の効率性について、効率性が高い産業と低い産業の分布を示しており、産業によって本社効率性が異なることを示している。
以上の、本社規模と本社機能の効率性を使い、財の変化を推計している。全サンプルを使った推計では、本社機能の効率性は安定した結果を見せていないが、生産性の高い企業にサンプルをしぼった推計では、本社機能の効率性は仮説通り財の数を増加させる結果を得ている。また本社規模は、財の数に対して逆U字の関係を有することがわかった。
ここでの分析は、これまで生産性と多角化や本社規模と多角化の関係で確定的な結果が得られていなかった背景には、本社機能の効率性という要因を見過ごしていた点があることを示している。そしてこのことは、財の新陳代謝に政策的な支援を与える際にも組織の一つである本社規模だけでなく本社の効率性にも着目した上での支援が必要だということを示している。