女性の月内体調変動と職場の生産性:RCTによる記録とフィードバックの効果検証

執筆者 黒田 祥子(ファカルティフェロー)/北川 梨津(コロンビア大学)/荒川 豊(九州大学)/藤田 周弥(さんぽワークス株式会社)/荒木 郁乃(積水化学工業株式会社)
発行日/NO. 2025年3月  25-J-007
研究プロジェクト 多様な働き方と健康・生産性に関する研究
ダウンロード/関連リンク

概要

男女には生物学的性差があり、女性はホルモンバランスの影響で体調が月内で変動する。このため、女性特有の症状があるときの生産性の低下は多大な経済損失につながっているとする研究もある。その経済損失は通常、「女性特有の症状があるときの生産性」に対する回答を用いて試算することが一般的だが、女性自身が生産性低下をどの程度正確に認識しているのかについては必ずしも明らかではない。そこで本研究では、某プライム上場製造業企業の20~30歳代女性を対象に、日々の体調や生産性を56日間にわたって記録するプログラムを実施してデータを収集し、そのプログラム内で2つのランダム化比較試験(RCT)を実施した。具体的には、①日々の記録を行う群と非記録群を分けたうえで、②記録群をさらに分割して途中で記録を可視化して生活改善のアドバイスを送る群と送らない群に分けるという、入れ子型のRCTである。①は日々のレコーディングによる自己理解の向上、②は記録のフィードバックによる行動変容を目的とした。結果、①記録群は非記録群に比べ、プログラム終了後に「女性特有の症状による生産性」を上方修正する傾向が見られた。一方で、②の効果は確認されなかった。また、本人が事前に申告していた「女性特有の症状があるときの生産性」以下に、56日間中に一日もならなかった人が全体の約3割存在し、そうした人ほどプログラム後に生産性に関する自己認識を上方修正する傾向があることがわかった。この結果は、自身の生産性を実際よりも低くなると認識している女性が少なくない可能性を示唆する。