中国生成AI規制における「規制と技術革新」の均衡点―中国AI戦略の把握に向けた一考察―

執筆者 川島 富士雄(神戸大学)
発行日/NO. 2025年2月  25-J-005
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第VI期)
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概要

2022年11月のChat GPT提供開始を皮切りに、現在、生成人工知能(AI)が著しい発展を見せており、これを受け、いかにAIを規制すべきか各国内及び国際的なレベルで活発な議論が展開されている。同様に、中国において生成AIの開発・実装が急速に進んでいるが、2023年4月、国家インターネット情報弁公室は、それに対し先手を打つように、開発段階からサービス提供までを対象とした、極めて管理・規制色の強い「生成AIサービス管理弁法草案」を公表した。しかし、同年7月、同弁公室、国家発展改革委員会、教育部、科学技術部、工業・情報化部、公安部及び国家ラジオテレビ総局の7部門連名で制定・公布された「同暫定弁法」では、より技術革新に配慮した内容に急転換が図られた。

2023年秋、米国が国内におけるAI等規制関連の政策空間を確保する必要性から、インド太平洋経済枠組み(IPEF)や世界貿易機関(WTO)電子商取引交渉での提案を取下げた動きに見られるように、AIガバナンスを巡る各国内の議論や利害状況は、国際的な電子商取引ルール交渉等に大きな影響を与えうる。そうした背景の下、本稿は、中国国内におけるAI規制の動向を詳細に分析することを通じ、国内での利害状況等を把握し、国際交渉における中国の現時点での姿勢の理解に資するとともに、今後の変化の兆しを読み取り、国際的なAIガバナンスに対する将来の影響を予測するための基盤を提供するよう努める。