執筆者 | 川瀬 剛志(ファカルティフェロー) |
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発行日/NO. | 2025年1月 25-J-001 |
研究プロジェクト | 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第VI期) |
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概要
コロナ禍でのサプライチェーン寸断、ロシアのウクライナ侵攻に加え、米中間の地政学的対立の文脈において、戦略物資としての半導体の重要性が高まっている。第一次トランプ政権下において、2019年に華為科技(ファーウェイ)を米国輸出管理規則(EAR)のエンティティリスト(EL)に登載して以来、米国は一貫して先端チップ及びその開発・設計・製造装置・技術等の対中輸出管理を強化してきた。2022年10月、とりわけ中国の人工知能(AI)開発を阻止・遅延させるべく、バイデン政権はいっそう厳格かつ包括的な輸出規制を導入し、順次その範囲を拡大してきた。本稿における米国措置の分析から明らかなように、米国は特にチップ製造の前工程に関する技術の対中優位を確保することを意図している。
米国の措置は、米中の地政学的緊張の継続を前提に、中長期的な安全保障戦略に対応したデュアルユース品の産業政策としての側面を有する。バイデン政権は、その目的を半導体の対中技術的優位を可能なかぎり拡大すること(“as large of a lead as possible”)にあると説明する。本稿では、米国の規制を読み解くとともに、かかる中長期的な時間枠組みを前提にした安全保障目的の通商制限はWTO協定上許容されるのか、あるいは協定適合的な措置の範囲は、極力限定された規制範囲に対する厳格な制限(“small yard, high fence”)にとどまるのかを、GATT21条(安全保障例外)の解釈を通じて明らかにし、昨今の経済安全保障の拡張と自由貿易体制の均衡点に示唆を与える。