デジタルトランスフォーメーションが生産性と企業内の資源再配分に与える影響

執筆者 深尾 京司(ファカルティフェロー)/乾 友彦(ファカルティフェロー)/金 榮愨(専修大学)/権 赫旭(ファカルティフェロー)/池内 健太(上席研究員(政策エコノミスト))
発行日/NO. 2023年8月  23-J-026
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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概要

日本経済はIT化で遅れており、IT投資の生産性への恩恵を十分に享受していないこと、これが生産性上昇の長期低迷につながっていることなどが先行研究によって指摘されてきた。2020年から始まった新型コロナウイルスの感染拡大で、日本経済はデジタルトランスフォーメーション(DX)を強いられているが、DXが企業パフォーマンスに与える影響に関する日本での先行研究は十分ではなかった。本研究は企業のデータを用いて、DXと企業パフォーマンスの関係を分析した。主な知見は以下のとおりである;(1)ITへの投資は企業の生産性と正の相関を持ち、主な貢献はソフトウェアによるものである;(2)兼任の情報システム総括役員(Chief Information Officer, CIO)の設置は企業の生産性と正の相関を持つが、CIOとIT投資の補完的な関係は確認できない;(3)スマートフォンやタブレットのような新しい端末の導入と生産性との直接的な関係は確認できない;(4)社内でのビックデータの活用と生産性向上の有意な関係は確認できない;(5)ビックデータの活用の中でもサプライヤー企業とのデータの共有は、企業の生産性と正の関係を持つが、カスタマーとの共有は生産性と負の関係を持つ可能性がある;(6)日本本社のIT投資は海外現地法人の利益率と弱い正の相関がある。

本研究のためには、経済産業省の『情報処理実態調査』、RIETIの『モノづくりにおけるビッグデータ活用とイノベーションに関する実態調査』、『経済産業省企業活動基本調査』、『海外事業活動基本調査』(経済産業省)、『東京商工リサーチ(TSR)』の企業データなどを、企業レベルで接続して分析している。