中国の産業補助金と上場企業のイノベーション活動―ミクロデータ分析―

執筆者 張 紅詠(上席研究員)
発行日/NO. 2021年12月  21-J-052
研究プロジェクト グローバル・サプライチェーンの危機と課題に関する実証研究
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概要

本研究では、中国の製造業上場企業を対象とする約25万件の補助金の詳細なデータを用いて、中国の産業補助金に関する観察事実を提供し、補助金と企業のR&D投資・特許出願などとの関係を定量的に分析する。主な分析結果は次の通りである。第一に、近年中国における産業補助金の件数と金額が急増し、2019年に97%の製造業企業が少なくとも1件の補助金を受けており、補助金集約度の平均が1.8%に達している。重要なのは、生産雇用・貿易投資のための補助金よりR&D・特許などのイノベーション活動向けの補助金が多いことである。また、近年国有企業を対象とする補助金のシェアが低下しており、補助金集約度は国有企業と民間企業との間に大きな差はないが、1社あたりの補助金額は国有企業が民間企業の2〜3倍ある。第二に、補助金とR&D投資との間に正の相関関係があり、補助金と特許出願との間にも正の相関関係がある。産業間のバラつきが大きいが、近年その正の相関関係はより顕著になっている。第三に、2015年より実施された産業政策「中国製造2025」の効果について差の差(difference-in-differences, DID)分析を行った結果、「中国製造2025」関連の補助金を受けていない企業に比べて、補助金を受けている企業は2015年以降R&D投資が14.9%、特許の出願件数(登録件数)が18.3%(24.9%)、それぞれ増加していることが明らかになった。これらの結果は「中国製造2025」をはじめとする産業政策・補助金が近年中国企業のイノベーション活動の拡大に対して一定の効果があったことを示唆している。ただし、補助金が投資・生産の規模を拡大させるものの、生産性への効果は限定的である。