WTO上級委員会に対する米国からの批判―TBT協定「正当な規制の区別」の再検討―

執筆者 内記 香子(名古屋大学)
発行日/NO. 2021年11月  21-J-051
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第V期)
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概要

本稿は、2020年2月に米国通商代表部(USTR)が公表した「WTO上級委員会に関する報告書(Report on the Appellate Body of the World Trade Organization)」の中の「上級委員会によるTBT協定及びGATTの無差別原則の解釈」の部分を取り上げ、米国による上級委員会への批判の妥当性を評価することを目的としている。米国は、2012年に3大TBT紛争(Trilogy of TBT cases)(すなわち、米国・クローブ入りタバコ規制事件、米国・マグロラベリング事件、米国・COOL事件)で敗訴しているが、USTRの本報告書の該当部分も、3大TBT紛争を経験したことを背景にしている。本報告書で米国はいくつかの主張をしているが、TBT協定2.1条とGATT3・20条の射程をめぐる主張については、妥当性はないと思われる。他方、米国・COOL事件におけるTBT協定2.1条の上級委判断に関する米国の主張は、個別案件における上級委の判断の誤りに対するクレームという側面を越えて、TBT協定2.1条における「正当な規制の区別(legitimate regulatory distinction)」の意味について再考する機会になっており、この点は興味深い。