ものづくり補助金の効果分析:事業実施場所と申請類型を考慮した分析

執筆者 橋本 由紀 (研究員(政策エコノミスト))/平沢 俊彦 (東京大学)
発行日/NO. 2021年6月  21-J-028
研究プロジェクト 総合的EBPM研究
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概要

本研究では、中小企業庁が2013年度に実施した「中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業」(ものづくり補助金)の政策効果を分析する。同補助金の効果は、関沢・牧岡・山口(2020)が、回帰不連続デザイン(RDD)分析とメタ分析を用いて2012年度と2013年度事業について分析している。本研究では、2013年度に補助金事業に申請した製造業企業のサンプルを用いて、マッチング分析と差の差(DID)分析によって、ものづくり補助金受給の効果を検討する。分析では、補助金受給事業所が、補助金事業が実施されなかった事業所に及ぼす影響(スピルオーバー効果)を取り除くために、補助金事業が実際に行われた「実施場所」を考慮したデータセットを用いる。また、企業を申請の類型で分類した分析も行う。分析の結果、「生産額」や「出荷額」のアウトカムは、総額では補助金受給後に高まっていたが、一人当たり指標でみた場合には、受給企業での従業員の増加を反映し有意差が観察されなかった。補助金採択企業の「一人当たり付加価値額」のアウトカムに、正または負の効果があったとは言い切れない結果については、関沢・牧岡・山口(2020)と整合的である。また、設備投資のみを行った企業と比べて、試作開発と設備投資の両方を行った企業のアウトカムが、有意に高まっていたこともなかった。ただし、本研究では、製造業以外の企業は分析していないこと、2012年度事業にも採択されたリピーター企業の影響に対処できていないことなどの限界があり、補助金事業全体の評価のためにはさらなる分析が必要となる。