資本蓄積の低迷と無形資産の役割-産業別データを利用した実証分析-

執筆者 宮川 努 (ファカルティフェロー)/石川 貴幸 (一橋大学)
発行日/NO. 2021年4月  21-J-020
研究プロジェクト コロナ危機後の資本蓄積と生産性向上
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概要

JIP2018データベースを使った成長会計によると、2010年代前半における資本蓄積の寄与は、0.1%を下回りほとんど無いに等しい。実は世界金融危機後の欧米主要国でも同様の現象が生じており、Gutierrez and Philippon (2017)及びCrouzet and Eberly (2018)のように、この資本蓄積の低下が長期停滞の一因であるという指摘もある。本研究は、無形資産を含むトービンのq理論を応用した彼らの議論に沿って、産業別データを利用して、有形資産投資の減少がどの程度無形資産投資で説明できるかを検証する。実証研究の結果、トービンのqが示唆する投資量と現実の有形資産投資量の差である投資ギャップの3/4が無形資産投資で説明できることがわかった。

本研究は、日本の有形資産投資の減少が無形資産投資である程度カバーされていることを示している。しかし、投資ギャップが完全に無くなったわけではない。国際的な水準からすると日本の無形資産投資はまだ量的に拡大できる余地がある。加えて、無形資産投資の中には、有形資産の補完的な役割を有するものもある。例えば、新規技術を装備した有形資産の蓄積とともになされる教育訓練で労働者のスキルが上昇する。こうしたことから有形資産および無形資産双方が蓄積される好循環を達成するためには、両資産の補完性を考慮した投資促進策が望まれる。