ノンテクニカルサマリー

資本蓄積の低迷と無形資産の役割-産業別データを利用した実証分析-

執筆者 宮川 努 (ファカルティフェロー)/石川 貴幸 (一橋大学)
研究プロジェクト コロナ危機後の資本蓄積と生産性向上
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「コロナ危機後の資本蓄積と生産性向上」プロジェクト

RIETIが公表しているJIPデータベースを見ると、最新版(JIP2021)の成長会計では、2010年代の経済成長要因に興味深い変化が見られる。それはそれまで成長への寄与がマイナスであった労働投入がプラスに転じた一方で、資本投入の寄与が労働投入の寄与よりも低くなったことである。こうした資本形成の減少は、世界金融危機(リーマン・ショック)以降の先進国における長期停滞の1つの要因として認識されている。

米国では、Gutierrez and Philippon (2017)およびCrouzet and Eberly (2018)といった経済学者たちが、投資の対象を建物や機械などの有形資産とソフトウエアや研究開発による知識資産などの無形資産に分け、有形資産投資の減少が、無形資産投資によってどれだけカバーされているかを検討している。

無形資産を量的に把握する方法は2種類ある。1つは内閣府が公表している国民経済計算の知的財産生産物に対する投資額を取る方法である。これは2019年時点で約30兆円となっている。一方JIPデータベースの中ではより範囲の広い無形資産投資を推計しており、この場合2015年で約50兆円となっている。有形資産投資との比率でみれば、国民経済計算の場合は1/3程度、JIPデータベースの場合は、55%程度となる。

企業価値または企業業績の増加には、有形資産だけでなく、無形資産も貢献している。しかしながら企業業績の動きに比して有形資産投資は減少しているので、企業業績から推定される投資量と建物や機械の投資量との間にはギャップが生じる。Gutierrez and Philippon (2017)およびCrouzet and Eberly (2018)にならって、われわれが推計した投資ギャップは図にあるように、2016年時点で6%程度ある。この投資ギャップは無形資産投資の拡大によって大きくなることが知られているため、この無形資産投資でどれだけ投資ギャップが埋められるかを調べてみると、2016年時点で投資ギャップの約3/4を無形資産等がカバーしていることが分かる。

ただ、無形資産投資を考慮しても投資ギャップがすべてなくなるわけではない。このことは日本の場合、まだ無形資産投資を拡大する余地が残されていることを示唆している。また無形資産投資は有形資産投資と連動することで、生産性をより向上させることが知られている。こうしたことから、企業の無形資産投資をサポートする政策は、企業投資の実質的な増加を通して経済成長に寄与するだけでなく、生産性の向上といった側面からも経済成長を促進するといえよう。

投資ギャップの推移
参考文献
  • Crouzet, Nicholas and Janice, C. Eberly (2018) "Understanding Weak Capital Investment: The Role of Market Concentration and Intangibles" presented at Federal Reserve Bank of Kansa City Conference.
  • Gutierrez, German and Thomas Philippon (2017) "Investmentless Growth: An Empirical Investigation," Brookings papers on Economic Activity, (Fall,) 89-169.