執筆者 | 宗 未来 (東京歯科大学)/小杉 良子 (慶應義塾大学)/新生 暁子 (順天堂大学)/小田木 友依 (慶應義塾大学)/腰 みさき (慶應義塾大学)/橋本 空 (ユナイテッド・ヘルスコミュニケーション株式会社)/関沢 洋一 (上席研究員)/斎藤 文恵 (慶應義塾大学)/小西 海香 (慶應義塾大学)/森 恵莉 (慈恵医科大学)/船山 道隆 (足利赤十字病院)/田渕 肇 (慶應義塾大学)/三村 將 (慶應義塾大学) |
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発行日/NO. | 2021年1月 21-J-003 |
研究プロジェクト | エビデンスに基づく医療に立脚した医療費適正化策や健康経営のあり方の探求 |
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概要
背景:超高齢社会を迎え、エビデンスに裏付けされた認知機能改善の開発が急務である。アルツハイマー型を含む多くの認知症では、記憶より先に嗅覚が衰えるが、嗅覚刺激は逆に記憶を司る海馬の神経新生を促すため、認知機能の改善が期待される。しかし、厳密な臨床試験での証明は事実上皆無である。本研究は、アロマセラピーで高齢者の認知機能が改善するかをランダム化比較試験で検証した。
研究方法:健常高齢者に、朝晩2時間ずつアロマシールを洋服に貼るアロマ群60名と、アロマの代わりにエタノールを使うプラセボ群59名に分け、12週間の介入を行った。主要評価項目は注意機能検査であるPASATで、副次的評価項目として記憶等の他の認知機能検査や対人信頼度等の心理社会学的評価も行った。
結果:PASAT-2秒条件で、アロマ群はプラセボ群に対して有意な改善を認めた(p=0.0223, Hedges’ g=0.44)。他の殆どの認知機能や心理学評価では差を認めなかったが、ウェルビーングと嗅覚(同定能力)ではプラセボ群が優っていた。
結論:脳機能の中でも加齢に伴いまず先に低下する注意は、記憶や他の認知機能よりも認知症や軽度認知障害(MCI)を有する高齢者の自立生活破綻や危険運転等への影響が大きいことから、近年重視されており、アロマセラピーにその注意改善効果が示されたことの臨床的意義は大きい 。一方で他の大半の認知機能や心理社会的変数への効果は示されず、対象が健常高齢者であるため天井効果により伸びしろが少なかったことも一因と示唆された 。今後の検証が望まれる。