ガバメントアクセス(GA)を理由とするデータの越境移転制限―その現状と国際通商法による規律、そしてDFFTに対する含意―

執筆者 渡辺 翔太 (株式会社野村総合研究所)
発行日/NO. 2019年12月  19-J-067
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第IV期)
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概要

今日、サイバー空間に対する諜報活動の重要性が増す一方、他国民を含むプライバシー侵害の懸念が生じている。また、諜報活動は秘匿性が高く、それゆえ産業スパイ的な活動等の濫用の懸念も指摘される。こうした懸念から近年、GAを理由として自国からのデータの越境移転制限が欧米等で生じているが、このような制限はデータの自由流通を阻害するため、既存の通商協定との抵触や日本の進める信頼ある自由なデータ流通(DFFT)との関係でも問題を生じ得る。

現状、EUや米国では、GAに対して一定の条件が満たされない限り個人データの国外移転を制限している。こうしたデータの越境移転制限について、GATS上はデータの移転制限には規律が及ばないがサービス提供を阻害する措置として問題となり得るほか、CPTPPでは制限そのものに規律を及ぼすが、両協定においてプライバシー保護や安全保障を理由として措置が正当化される余地があることを明らかにした。

しかし、現状の通商協定の規律にはなお不明確な点が多く残されており、DFFTの推進に当たってGAを理由に移転制限が認められる条件に関して国際的な議論を推進すべきこと、そのために現在国連等で行われている議論を参照しつつ、通商分野を超えた分野横断的な議論が求められることを提言した。