執筆者 | 渡辺 翔太 (株式会社野村総合研究所) |
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研究プロジェクト | 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第IV期) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
貿易投資プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「現代国際通商・投資システムの総合的研究(第IV期)」プロジェクト
本稿では、政府機関等の公的機関による、民間部門が保有する情報への強制力を持ったアクセスをガバメントアクセス(GA)として定義した。今日、サイバー空間に対する諜報活動の重要性が増す一方、他国民を含むプライバシー侵害の懸念が生じている。また、諜報活動は秘匿性が高く、それゆえ産業スパイ的な活動等の濫用の懸念も指摘される。すなわち、GAは個人情報や知的財産の保護、公共の安全といった社会的に重要な価値を侵害し得るのである。以下に、本稿が対象としたGAの類型を示す。本稿では、データの利用目的と、データの種類(個人/非個人)でこれを区分することとした。
分類 | 目的 | 個人データ | 非個人データ |
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公共の安全 (国家安全保障) |
犯罪捜査(通常の刑事手続) | (本稿の検討外) | |
諜報活動(バルクデータ) | |||
諜報活動(特定情報) | |||
産業政策 | 強制技術移転 |
仮に外国で十分なセーフガードなくGAが認められているとすると、当該国に対してデータを移転することそのものが上記の価値を保護するという観点から問題になる。こうした懸念から近年、GAを理由として自国からのデータの越境移転制限が欧米等で生じている。
他方、このような制限はデータの自由流通を阻害するため、既存の通商協定との抵触や日本の進める信頼ある自由なデータ流通(DFFT)との関係でも問題を生じ得る。
以上の問題意識から、本稿では各国のGAに関する制度の概要、GAを理由とした越境移転制限の概要、そして当該移転制限措置と国際通商ルールの整合性を検討し、最後にこれら現状分析を踏まえた、今後のルールメイクに関する展望を論じた。
現状、EUや米国では、GAを認める制度が存在するが、GAを行うには、権利侵害の最小化や産業スパイの防止等、一定の要件が課されている。他方、中国等の新興国では、経済的な理由を含めきわめて広範なGAの権限が規定されている。更に、データローカライゼーションが規定されているため、GAに基づいてローカライズさせたデータにアクセスし、産業政策の実現手段として用いられる可能性がある。
以上の現状に対して、欧米ではGAに対して一定の条件が満たされない限り個人データ等の国外移転を制限する措置も導入されつつある。
他方、こうしたデータの越境移転制限について、サービスの貿易に関する一般協定(GATS)上はデータの移転制限そのものには規律が及ばないが、越境的なサービス提供を阻害する措置として規律を及ぼし得るほか、GATSの規律を進めた環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)はデータの移転制限そのものに規律を及ぼすが、両協定においてプライバシー保護や安全保障を理由として措置が正当化される余地がある。
しかし、WTOにおいてデータの越境移転制限を扱った先例はなく、現状の通商協定の規律にはなお不明確な点が多く残されており、DFFTの推進に当たってGAを理由に移転制限が認められる条件に関して国際的な議論を推進すべきである。また、国際的な議論の推進にあたっては、WTO等の既存の通商フォーラムに閉じることなく、広く通商分野を超えた国際的な議論、例えば現在国連等で行われているプライバシーと監視に関する議論等を参照しつつ、日本として分野横断的な議論を一元的、戦略的に進めていく必要がある。