投資の調整費用の低下―Multiple qの投資関数による1997年の金融危機前後の検証―

執筆者 外木 好美 (立正大学)/宮川 努 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2019年7月  19-J-041
研究プロジェクト 生産性向上投資研究
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概要

IT革命に伴い、IT技術のような汎用性を有する技術革新(General Purpose Technology, 略してGPT)の場合、従来のカテゴリーの投資以外に補完的な投資または支出が必要であるという認識が広まっている。Basu et al.(2003)やBrynjolfsson, Rock and Syverson(2018)が指摘するように、こうした補完的支出の存在は、ソロー残差の計測にバイアスをもたらすことになる。

一方、従来型の設備投資に関しては調整費用を伴うことが知られており、Brynjolfsson, Rock and Syverson(2018)は、この従来型投資に伴う調整費用こそが、従来のGDP統計では補捉できない補完的な投資に相当するのではとみなしている。彼らの推計では、既に貸借対照表に掲載されている資産とR&D資産、一般管理費から計測される無形資産の調整費用を計測し、R&D資産に伴う調整費用が最も大きいことが示されている。

本稿もこうした問題意識に基づき、日本の企業における調整費用を計測するが、二つの点で先行研究と異なっている。一つは、R&D資本だけでなく通常の資本についてもより詳細に分割して、それぞれの調整費用を計測していることである。二つ目は、既に述べたようにIT革命以前と以降では調整費用の解釈が異なってきている。こうした点を踏まえ、1997年以前と以降で調整費用の性格がどのように変化したかを調べたことである。全産業の推定では、[a]建物・構築物、[d]工具器具備品、[f]R&Dの順で、投資に伴う補完的な無形資産投資が多いこと、1998年以降はこれらの投資に伴う補完的な無形資産投資が減っていることがわかった。R&D資産の調整費用が大きい点は、従来型研究と整合的だが、1998年以降調整費用の値が低下している点は、IT革命時にもかかわらず、補完的な投資があまり行われなかったことを意味しており、日本経済のその後のIT革命へのキャッチアップの遅れを示唆している現象だと解釈することができる。