AIなどの新しい情報技術の利用と労働者のウェルビーイング:パネルデータを用いた検証

執筆者 山本 勲 (ファカルティフェロー)/黒田 祥子 (早稲田大学)
発行日/NO. 2019年3月  19-J-012
研究プロジェクト 働き方改革と健康経営に関する研究
ダウンロード/関連リンク

概要

本稿では、労働者のパネルデータを用いて、新しい情報技術の導入・活用によって、労働者の健康や仕事へのエンゲイジメントなどのウェルビーイングがどのように変化するか、また、どのような労働者や職場で変化が顕著であるかを検証した。まず、AIやIoT、ビッグデータなどの新しい情報技術の導入・活用の状況を概観すると、ルーティンタスクが相対的に多い労働者、賃金の高い労働者、労働時間の長い労働者、業務の効率化などの働き方改革に取り組んでいる職場の労働者ほど、職場での導入・活用が進んでいる傾向があることが明らかになった。次に、パネルデータを用いた推計を実施したところ、メンタルヘルス指標やワークエンゲイジメント指標などのウェルビーイング指標が新しい情報技術の導入・活用によって高まる傾向があることが示された。AIなどの新技術の導入・活用は、仕事の負荷を高める効果よりも、労働者を支援する効果のほうが大きく、結果的に、メンタルヘルスやワークエンゲイジメントなどのウェルビーイングを改善させると解釈できる。一方、そうした新しい情報技術のウェルビーイングへの影響は、業務内容の明確性・仕事の裁量度の高い労働者や突発的な業務が頻繁に生じる労働者、業務の効率化や残業抑制、朝活・夕活の推奨、有給休暇の取得促進といった働き方改革を実施している職場の労働者などで顕著であることも分かった。働き方を改めながら新しい情報技術を導入・活用することで、労働者のウェルビーイングを高める相乗効果が生まれると解釈できる。