WTO協定における無差別原則の明確化と変容-近時の判例法の展開とその加盟国規制裁量に対する示唆-

執筆者 川瀬 剛志 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2015年2月  15-J-004
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期)
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概要

WTO法体系の根幹をなす無差別原則(最恵国待遇・内国民待遇)に関する中心的な規定であるGATT第1条、第3条、第20条は、その抽象的・一般的な規律内容から、GATT1947時代より準司法的判断による明確化が図られてきた。その方向性は、加盟国の規制裁量を柔軟に認めるか、あるいは無差別・多角的・自由な貿易の貫徹かを双極として、どちらに近接するかにつき、時期によって一定の「ゆらぎ」が見て取れる。これらにつき、WTO発足後から2000年前後までの比較的早期に上級委員会によって重要な解釈が示され、しばらく判断の傾向は安定していた。しかし、2010年代に入り、これらの条文に加え、密接な関係を有するTBT協定2.1条に関する上級委員会の判断が相次いで示され、解釈に一定の変化と発展が見られるようになった。

本稿では、近年の事案で重要な展開があった論点毎に判例の変遷を追い、WTOが無差別・多角的貿易の追求と加盟国の規制裁量とのバランスを奈辺に置いているかを検討する。現状では、パネル・上級委員会はGATTの無差別原則を原産地別の差別を禁じる規律と断じる一方で、差別が有する規制目的については、同第20条の規範構造の柔軟な解釈により、積極的に位置付ける姿勢を示す。他方、TBT協定の無差別原則の解釈においては、差別が正当な規制目的による区別を体現するか否かを問うことで、可能なかぎり政策裁量を尊重している。