発明者へのインセンティブ設計:理論と実証

執筆者 長岡 貞男  (ファカルティフェロー) /大湾 秀雄  (ファカルティフェロー) /大西 宏一郎  (大阪工業大学)
発行日/NO. 2014年9月  14-J-044
研究プロジェクト イノベーション過程とその制度インフラの研究
ダウンロード/関連リンク

概要

現在、職務発明制度の改革が議論されており、特許法35条が大幅に改正される見通しとなっている。この結果、各企業が発明者へのインセンティブ制度を設計する自由度は高まると予想される。本稿では、発明への誘因の最適設計という理論的視点および国際的な発明者サーベイを活用した実証的な研究に基づいて、企業の今後の取り組みに参考となると考えられる示唆とデータをまとめると共に、政策的に重要と考えられる点を整理した。

発明への動機は多様であるが、内発的動機(チャレンジングな技術的課題の解決からの効用、科学技術の進歩への貢献による満足感)は重要であり、これらが重要な発明では発明の進歩性やその経済的価値も高い。また、発明者への経済的な誘因も、発明開示や出願時の支払い、発明の実施実績による報酬、研究の自由度、昇進や昇給など選択肢は多く、組み合わせも可能であり、現実に発明の実績は昇進や昇給にも反映されている。インセンティブ設計の理論は、発明者のリスク負担能力、モニタリングの可能性、研究開発特性、企業の長期的インセンティブへのコミットメント能力など、多様な要因を考慮する必要性を示唆している。本論文でも、内発的動機付けのある発明者では、実績報奨の限界効果が低くなる傾向が見られた。

イノベーションを促すインセンティブ設計の創意工夫で企業が競争することが重要であり、その前提として職務発明の所有権の明確な移転ルールを事前に選択できることが重要である。同時に、政府は契約や合意が守られることと、また私的な利益は小さくても社会的なスピルオーバーが大きい発明を支援していくことが重要だと考えられる。

※本稿の英語版ディスカッション・ペーパー:15-E-071