発明の科学的源泉-発明者サーベイからの知見-

執筆者 長岡 貞男  (ファカルティフェロー) /山内 勇  (研究員)
発行日/NO. 2014年8月  14-J-038
研究プロジェクト イノベーション過程とその制度インフラの研究
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概要

本研究では、日本の発明者を対象に、その発明の科学的な源泉についてアンケート調査を行った。調査結果によれば、約4分の1の発明において、過去15年程度の間に新たに利用可能となった科学技術文献や研究機器・試料が無ければ、研究開発自体の着想がなかったか、あっても実施が非常に困難であった。また、約3%の発明では大学や国公立研究機関との直接的な連携が、研究開発の実施に必須の役割を果たしていた。全体では約3分の2の発明において、科学的な成果が、発明の着想あるいは実施を加速させる効果があった。これらの結果は、公共財としての科学的研究成果の公刊を促すことの重要性を再確認させるとともに、研究基盤としての研究機器・試料の整備・構築の重要性を認識させるものである。

また、調査結果からは、発明の着想や実施に重要であった科学的源泉の多く(対象発明の7割近く)は日本国内で創出された(研究者や企業が国内に所在していた)ものであることが分かった。さらに、そうした重要な科学的源泉が特許に引用される場合、従来技術の箇所で開示されることが多いことも分かった。

他方で、発明の着想や実施に重要な科学的成果と、発明者引用(当該発明の新規性・進歩性の判断に重要な文献や、発明の開示に有用な文献)は一致しない場合が多いことも明らかとなった。発明の着想・実施に重要な科学技術文献が存在する発明で、それが特許の明細書に引用される頻度は15%であり、また、非特許文献を引用している発明が、実際に研究開発の着想・実施に重要な科学技術文献を引用している頻度は16%に過ぎない。すなわち、発明者の引用情報は知識フローの指標としては限界があり、サーベイなどによる直接的な同定が重要であるといえる。