WTO協定における文化多様性概念-コンテンツ産品の待遇および文化多様性条約との関係を中心に-

執筆者 川瀬 剛志  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2013年8月  13-J-056
研究プロジェクト 現代国際通商システムの総合的研究
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概要

グローバル化に伴う文化の越境的拡散により画一的なグローバル文化(あるいはアメリカ文化)に収束し、多様性の喪失が懸念される。2005年採択のUNESCO文化多様性条約は、このような危機感から国内文化産業の保護・育成を含む文化多様性保護・促進策に関する加盟国の権利を定める。各国が取る具体的施策はスクリーンクォータや補助金など多岐に及ぶ。

しかしこのような政策手段の本質は国産・特定国原産コンテンツ産品の優遇であり、特にWTO協定の無差別原則(最恵国待遇原則・内国民待遇原則)との抵触は不可避である。また、WTO協定、文化多様性条約ともに十分なレジーム調整メカニズムを備えていない。加えて条約法における解釈・適用に関する一般原則も、両協定の関係整理に資するものではない。

「クールジャパン」がアベノミクス「第3の矢」(成長戦略)の一環に位置づけられ、TPPをはじめメガリージョン統合を通じた我が国コンテンツの海外進出円滑化が喫緊の政策課題となった。本稿ではこの点を踏まえ、主に物品貿易としてのコンテンツ産品貿易の側面を中心に、文化多様性と自由貿易それぞれの法理の相克について現状を示し、この文脈での国際貿易ルールの今後に示唆を与える。