国際課税と通商・投資関係条約の接点

執筆者 渕 圭吾  (学習院大学)
発行日/NO. 2010年7月  10-J-040
研究プロジェクト 通商関係条約と税制
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概要

租税条約と通商・投資関係条約の関係について、これまでほとんど議論が行われてこなかった。むしろ、内国民待遇や最恵国待遇が明示的に規定されていないことをもって、租税条約の無差別原則が不十分であり、物品・資金移動の阻害要因となっているという趣旨の主張すら存在した。しかしこのような主張は誤っている。

本稿は、租税条約と通商・投資関係条約は、相互に関係がないどころか、歴史的に見ればその起源の段階で密接に関わっていた、という事実を指摘する。これは、世界的に見ても先行研究が触れていない事実である。租税条約の恒久的施設(permanent establishment)に関する規定(OECDモデル租税条約5条,7条,24条3項)の起源として、国際連盟規約23条e項の「通商の公平待遇(equitable treatment of commerce)」に関する規定及びこれについての国際連盟経済委員会の議論が存在する、という事実を指摘する。要するに、租税条約における「恒久的施設なければ事業所得課税なし」という大原則は、元来、国際的二重課税の防止というよりも、投資に関する内国民待遇を確保するためのものであった。