ノンテクニカルサマリー

国際課税と通商・投資関係条約の接点

執筆者 渕 圭吾 (学習院大学)
研究プロジェクト 通商関係条約と税制
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

租税条約と、通商・投資関係条約の関係について、これまでほとんど議論が行われてこなかった。むしろ、内国民待遇や最恵国待遇が明示的に規定されていないことをもって、租税条約の無差別原則が不十分であり、物品・資金移動の阻害要因となっているという趣旨の主張すら存在した。しかし、このような主張は誤っている。

本稿は、租税条約と通商・投資関係条約とは、相互に関係がないどころか、歴史的に見れば、その起源の段階で密接に関わっていた、という事実を指摘する。これは、世界的に見ても先行研究が触れていない事実である。租税条約の恒久的施設(permanent establishment)に関する規定(OECDモデル租税条約5条,7条,24条3項)の起源として、国際連盟規約23条e項の「通商の公平待遇(equitable treatment of commerce)」に関する規定およびこれについての国際連盟経済委員会の議論が存在する、という事実を指摘する。要するに、租税条約における「恒久的施設なければ事業所得課税なし」という大原則は、元来、国際的二重課税の防止というよりも、投資に関する内国民待遇を確保するためのものであった。

本稿からは、従来しばしば見られた、通商・投資関係条約と異なり租税条約においては内国民待遇や最恵国待遇がきちんと保障されていない、とか、租税事項を通商・投資関係条約の対象から外すと課税の名の下に何でもできてしまう、といった言説が不正確であることがわかる。所得課税については、租税条約がしっかり規律しており、内国民待遇という点でいえば、通商・投資関係条約よりも保護の度合いは高い。もっとも、租税条約がカバーしているのはあくまで所得課税であり、それ以外の課税について通商・投資関係条約が目を光らせる必要はある。また、課税に名を借りた実質的な収用が租税条約からも正当化できないことは、言うまでもない。