やさしい経済学―市場を創る技術革新

第4回 太陽光発電の例

大橋 弘
ファカルティフェロー

市場を創る技術革新は、本質的に波及効果(スピルオーバー)を内在している点を前回指摘した。この波及効果が具体的にどのような形となって表れるかは、注目する技術によって大きく異なりうる。今回は太陽光発電を取り上げて議論をしたい。

わが国の太陽光発電への研究開発の歴史は長く、世界の最先端を走るわが国の技術が太陽光発電には多く存在する。技術的には世界をリードする立場にある一方で、その普及は近年ドイツやスペインに追い抜かれるなど必ずしも順調とはいえない状況だ。

こうした中、環境と成長の両立を目指すグリーンイノベーション促進の目玉として、太陽光発電の普及が脚光を浴びている。昨年11月からは太陽光発電の余剰買い取り制度が始まり、水力や風力も加えた再生可能エネルギーの全量買い取り制度もその概要が先日明らかにされた。とりわけ住宅用太陽光発電に対しては強い政策的な後押しが感じられる。

グリーンイノベーションとして太陽光発電を国が促進する背景には、太陽光発電の生産に学習効果が働き、システム価格が数年で半分近くに下がれば、太陽光発電の大量導入を通じ、電気自動車や蓄電池技術など周辺産業に新たな需要が生まれるとの考え方があると思われる。最近、よく耳にするスマートグリッドもこの議論の延長線上にあるといえよう。

パネルが大量に導入されても、晴天時の昼間しか電気を作らない太陽光発電の稼働率は高くなく、発電効率の大幅な向上が見込めない限り、温暖化対策としての太陽光発電の貢献は限定的だ。ただし太陽光発電に経済波及効果が強く存在するなら、その普及を政策的に後押しすることにも意味があるといえる。

太陽光発電の学習効果に関しては、神戸大学の明城聡准教授と筆者の共同研究で、従来型の多結晶シリコンのパネルでは累積生産量が倍になっても費用逓減効果はわずか1%程度と推計された。とはいえ、この学習効果の程度は次世代の薄膜型シリコンのパネルでは大きく向上する可能性もある。このように実証研究ではまだ政策的な後押しが正当化されるかどうか、明確な結論がでていない。ただいずれにせよ、太陽光発電の持つ波及効果を最大限発揮するには、わが国の技術特性を生かしたシステムの標準化を早急に確立することが不可欠であり、電力系統が脆弱でコミュニティーレベルでの分散型電源の活用が適した海外地域への売り込みを急ぐべきだろう。

2010年8月3日 日本経済新聞「やさしい経済学―市場を創る技術革新」に掲載

2010年9月6日掲載

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