やさしい経済学―潜在成長力と生産性

第2回 IT利用産業が鍵

深尾 京司
ファカルティフェロー

前回みた全要素生産性(TFP)の上昇率は産業(業種)ごとに大きく異なり、マクロ経済のTFP上昇への寄与は一部の産業に集中する。

たとえば全産業を108に分類するJIPデータベース前回参照)によれば、1980年代にマクロ経済のTFPは年率1.1%上昇したが、この上昇はトップ9産業で生み出され、残りの産業ではプラスとマイナスの寄与が相殺した。プラスの寄与が大きかったのは電子・電気機器のようにTFP上昇が著しかった産業と、その上昇率は高くないがマクロ経済に占めるシェアの大きい卸売り、金融、保険などの産業である。

TFP上昇への寄与が一部の産業に集中していることは米国についても報告されている。しかし、同じ産業でも国や時期によって、TFP上昇率は大きく異なる。

図は、80-95年と95-2004年について主要6カ国のTFP上昇率を、(1)IT(情報技術)財・サービス生産部門(電子機器、通信など)(2)電子機器を除く製造業(3)流通部門(卸・小売り、運輸)について比較している。(1)のTFP上昇率は、6カ国のなかで日本が一番高い。問題はこの部門が経済に占めるシェアが小さい(他国も同様だが)ことである。マンアワー(就業者数×就業時間)でみたこの部門の経済全体に占めるシェアは95-04年平均で約4%にすぎない。

産業別のTFP上昇

一方、(2)や(3)では米国、欧州(イタリアを除く)で堅調にTFPが上昇したのに対し、日本では90年代以降、深刻な停滞が起きた。この2つの部門のシェアは各国とも大きく、マクロ経済のTFPの動きを左右する(日本ではマンアワーベースで各17%、23%)。そうした構造の下、米国ではIT利用産業の(2)や(3)にもIT革命が及んだが、これに出遅れた日本では、主にIT利用産業のTFPの低迷がマクロのTFP上昇を停滞させたのである。

2007年12月13日 日本経済新聞「やさしい経済学―潜在成長力と生産性」に掲載

2008年1月16日掲載

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