やさしい経済学―非営利部門と統計整備

第6回 営利部門との接近

山内 直人
ファカルティフェロー

これまで営利の世界と非営利の世界には、はっきりとした境界があるかのように説明してきたが、現実はそう単純ではない。

非営利団体は基本的に、利潤や剰余金を外部に分配できないという「非分配制約」を課されている。しかし、労働の対価で費用の一部である賃金に利潤を上乗せして理事やスタッフに支払えば、実質的には利潤を外部へ偽装的に分配することが容易になるので、この制約は絶対的なものとはいえない。

また、もともと非分配の制約が弱い非営利法人もある。たとえば医療法人のなかには解散時に残余財産を関係者間で分配できるところもあり、その意味で営利組織に近い。もし、医療法人を除くと日本の非営利部門の規模は一気に半減することになる。

国民経済計算(SNA)では、費用の過半を市場での販売収入で賄えるものを市場非営利団体、賄えないものを非市場非営利団体としている。表は非営利団体を費用支出に対する販売収入の比率の高い方から並べたもので、これが高いほど営利企業に近い収支構造を持つと考えられる。

法人種別支出・販売収入比率

最近、企業の社会的責任(CSR)に積極的に取り組む企業が増える一方、非営利団体のなかにも収益事業を拡大して、本来の事業の経費を賄おうとする動きがある。これはすなわち、営利企業のなかの非営利部門の拡大と非営利団体のなかの営利部門の拡大が同時に進行していることを意味している。

欧州で発達している協同組合や相互会社、あるいは近年日本でも社会起業家、ソーシャルベンチャー、コミュニティービジネスなどとよばれる事業や団体は、制度上は利潤分配が可能であっても、非営利団体と同様な社会的なミッション(任務)を追求していれば、営利・非営利の境界線上の活動と考えられる。

これらの事例は、営利と非営利の接近、収れん、あるいはクロスオーバーが進んでいることを示唆しており、大変興味深い。ただ同時に、こうした動きによって統計上の取り扱いがますます複雑になる可能性があることを指摘しておきたい。

2007年11月14日 日本経済新聞「やさしい経済学―非営利部門と統計整備」に掲載

2007年12月6日掲載

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