やさしい経済学―非営利部門と統計整備

第5回 労働市場と報酬

山内 直人
ファカルティフェロー

非営利部門の新しい統計であるサテライト勘定によれば、この部門の従業者は2004年度で約490万人と、日本全体の従業者の7.3%を占める。この比率は、同部門の生み出す付加価値の対国内総生産(GDP)比率よりはるかに高い。これは、非営利部門の報酬が他の部門よりかなり低いことを反映していると考えられる。

非営利部門の労働市場では、常勤スタッフだけでなく、多くの非常勤スタッフが働いている。これを踏まえてフルタイム換算の就業者数を計算すると、約430万となった。分野別には医療保険(医療法人など)が41%、社会サービス(社会福祉法人など)27%、教育研究(学校法人など)15%と、この3分野で非営利部門全体の83%を占めた。

非営利労働市場については女性スタッフが多い、中途採用が多い、転職志向が強いといった点が指摘されるが、最大の特徴は有給従業者と無給従業者(ボランティア)が役割分担しつつ同じ組織で共存していることであろう。

非営利部門全体では、フルタイム換算で有給従業者約430万人に対してボランティアは210万人となり、双方の合計に占めるボランティアの比率は33%、全体の3分の1にも達する。

もっとも、有給と無給の比率は分野によって大きく異なる。医療保険、教育研究、社会サービスなどで有給比率が7割を超える半面、環境、フィランソロピー(慈善活動)、文化、国際協力・交流では2割に満たない。国による違いも大きく、たとえば北欧諸国では、ボランティアのマンパワーが有給従業者のそれを大きく上回る。

非営利部門の従業者数

有給従業者が多いということは、非営利団体の支払能力が高いということを意味する。一方、ボランティアの比率が高いということは、その団体の活動が高い公益性を持つことを示唆しており、どちらの割合が高い方がよいか一概にいうことはできない。

2007年11月13日 日本経済新聞「やさしい経済学―非営利部門と統計整備」に掲載

2007年12月6日掲載

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