やさしい経済学―非営利部門と統計整備

第1回 市民社会の課題

山内 直人
ファカルティフェロー

近年、世界中で非営利組織(NPO)、非政府組織(NGO)やボランティアといった市民組織あるいは民間非営利部門が台頭し、メディアで紹介されることも多くなった。それに伴い、こうした非営利部門の活動を体系的・定量的に把握することの重要性は年々増しているが、統計の整備はそう簡単なことではない。

一国の経済活動をマクロ的にとらえる場合、基本となる統計は国民経済計算(SNA)だが、SNAでは非営利部門の実態を十分描写することは難しい。

まずSNAでは、さまざまな非営利活動が一般政府、対家計民間非営利団体、法人企業といった複数の部門に分割計上されていて、非営利部門全体を見通しにくい。また、非営利部門にとって重要な資源投入であるボランティアの経済価値がSNAに反映されていない。

そこで、ジョンズ・ホプキンス大のレスター・サラモン氏らが国連統計局に働きかけ、SNAと整合的で国際比較可能な「非営利サテライト勘定」という統計を整備することを提唱した。サテライト勘定とは、SNAの本体とは別に、これを補完する形で、環境、介護、観光など特定の分野の詳細な統計を整備しようとするものである。

現在では約30カ国の統計局や中央銀行が、国連統計局のつくったハンドブックに従い、非営利サテライト勘定の整備に取り組んでいる。日本からは、SNAの作成を担当する内閣府経済社会総合研究所が参加している。

すでにいくつかの国では同サテライト勘定が試作され、主要数値が利用可能になっている。一例として図に各国の国内総生産(GDP)に占める非営利部門のシェア(寄与率)を示した。

非営利部門のGDPに占めるシェア

本稿では非営利部門の最新の統計をもちいて、日本の市民社会の現状と課題を考えていきたい。

2007年11月6日 日本経済新聞「やさしい経済学―非営利部門と統計整備」に掲載

2007年12月6日掲載

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