産業政策の有効性は、それ以外の経済政策といかに調和しているかにも依存します。
その一つが、市場における企業間の公正かつ自由な競争の促進を目的とする競争政策です。日本では公正取引委員会が独占禁止法に基づき、カルテルや談合などを取り締まったり、市場を独占するような企業の合併・買収を規制したりしています。市場メカニズムの強化で、価格低下や品質向上などの消費者利益を確保し、企業の生産性向上やイノベーションの促進が期待されています。
競争政策は、産業の資源配分に直接介入する産業政策と矛盾するようにみえます。しかし、仏コレージュ・ド・フランスのフィリップ・アギヨン教授らは、中国企業のデータを使った研究で、補助金や税制優遇などの産業政策が、部門内の競争を妨げない形で分散的に実施される場合や、競争を促進しうる若い企業に配分される場合に、生産性を高めることを示しました。
産業政策か競争政策かという二分論ではなく、両者の補完性強化が重要だと示唆されます。
産業政策は経済構造改革とも関係があります。衰退産業を単に延命するのではなく、そこで働く労働者を成長産業へ円滑に移行させる環境を整えることも、広い意味の産業政策です。
財政政策との関係も重要です。日本は財政赤字が続き、政府債務も高水準にあるため、財政上の制約が大きくなっています。限られた財政資源を重点的に配分する「ワイズスペンディング」が求められます。
また、民間投資を誘発する工夫も必要でしょう。ミッション志向型産業政策では、政府が一定のリスクを負うことが主張されますが、その手段は補助金に限られません。規制改革、政府調達、情報提供など、民間投資を促す制度設計も重要です。
最後に、政策実施には不確実性が避けられません。政策目的を明確にしたうえで、実施後の効果検証を次の政策に生かす「証拠に基づく政策立案」の考え方を、さらに浸透させることが必要です。
2026年8月14日 日本経済新聞「やさしい経済学―産業政策の新潮流」に掲載