産業政策は、補助金や関税などによって、国内産業を優先する保護主義的措置をとることがあります。このとき、自国産業の競争条件が有利になり、他国の同産業が失業などの打撃を受けることがあります。
自国の利益のための産業政策が他国の経済を犠牲にし、「近隣窮乏化」を引き起こすのです。1930年代の大恐慌時には、保護主義的措置が国際経済秩序の不安定化を招きました。
産業政策が近隣窮乏化を伴えば、報復的な政策競争につながり、世界経済にとって大きなリスクとなります。スイスのビジネススクール、IMDのサイモン・エベネット教授らの研究チームは、独自に構築したデータから産業政策がどのような要因で実施されているかを分析しました。
彼らの研究では、他国が過去に産業政策を導入した部門で、自国も同様の政策を導入しやすい傾向が示されています。これは産業政策に追随・対抗的な側面があることを示唆します。
近年の産業政策の利用では、先進国が発展途上国を大幅に上回っており、格差が広がることも懸念されます。財政力や技術力が豊富な先進国では、大規模な産業政策を実施しやすい一方、発展途上国はそれらが乏しい傾向にあります。
国際的に産業政策への許容度が高まる中で、発展途上国が政策競争で不利な立場に置かれ、取り残される可能性があります。
発展途上国も包摂する産業政策の国際的枠組みが必要だとの主張もみられます。米ハーバード大学のダニ・ロドリック教授らは、責任あるグローバル化に向け、産業政策を国際的に議論するフォーラムの設立を提唱しています。
実際に欧州連合(EU)の産業政策をめぐる研究では、加盟国が単独で補助金を実施する場合よりも、域内で調整された場合の方が政策効果を高めやすいことがわかっています。
国際的な政策協調は可能なのでしょうか。筆者らの研究は、日本は東南アジアとの間で、サプライチェーン上の相互補完性を強化する産業政策を実施してきたことを示しました。国際的な協調に向けた多方面での試みが求められています。
2026年8月11日 日本経済新聞「やさしい経済学―産業政策の新潮流」に掲載