やさしい経済学―産業政策の新潮流

第5回 米国は「隠れた開発国家」

安橋 正人
コンサルティングフェロー

1980年代の米国のレーガン政権は、歳出削減や規制緩和などを軸とした「レーガノミクス」を掲げ、市場の自由な競争を促しました。特定の勝ち組産業を選別する産業政策は、旧ソ連のように経済の非効率を招くとして否定的にとらえられていました。

しかし2008年の世界金融危機を契機に、米国でも再び注目を集めました。緊急的措置としてゼネラル・モーターズ(GM)などへの経営支援や、エコカーなどの特定分野での需要促進政策が実施されました。

21年にバイデン政権が発足すると、産業政策による競争力強化の方針が一段と明確になりました。大統領補佐官を務めたジェイク・サリバン氏らは、就任前に寄稿した論考の中で「産業政策はかつて恥ずべきものとみなされていたが、今はほとんど自明とみなされるべきだ」と述べました。

同政権は「インフラ投資雇用法」や半導体の国内生産を促す「CHIPS・科学法」を施行し、投資主導型の産業政策を展開しました。転換の背景には、中国企業との技術面での競争やサプライチェーン上のリスクなどがあります。

これに先立つ第1次トランプ政権では、製造業の国内回帰を狙って、米国製品を優先購入する「バイアメリカン」政策の促進とともに、鉄鋼やアルミといった物品に関税が賦課されました。第2次政権でも、関税や国内生産回帰を重視する姿勢が強化されています。

もっとも、米国政府は以前から技術革新と産業発展を強く支えてきたとの見方があります。具体例の一つが、国防総省所属の国防高等研究計画局(DARPA)です。同局は長期的な研究開発を促進するために、大学・企業・研究所を結びつけ、情報通信やエレクトロニクスなどの多様な技術革新を支援しました。

政府の技術ニーズと民間スタートアップを結びつける政府関連のベンチャー投資モデルも存在します。

英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのロバート・ウェイド教授は、こうした米国の産業政策システムを、自由市場の看板の下で機能してきた「隠れた開発国家」と位置づけています。

2026年8月6日 日本経済新聞「やさしい経済学―産業政策の新潮流」に掲載

2026年9月10日掲載

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